サーカスと日本/モリエール
ルーアン・ノルマンディー地域圏美術館連合は、5月17日まで、サーカスに焦点を当てた展覧会を4会場で開催している。数十年にわたってサーカスや大道芸に関する貴重な物品を蒐集してきた個人コレクターがコレクションを一挙に公開。近代サーカスの起源から現代までを網羅する大規模なものだ。フランスの公立美術館でサーカスに特化した展覧会が開催されるのはこれが初めてだが、特筆すべきは、日本が大きな位置を占めていること。開国による欧米公演で人気を博した日本の大道芸は、それまでの欧州のサーカスの概念を打ち破るものだった。江戸の火消し衆の「アクロバット」や大道芸人の興行の様子を描いた浮世絵のほか、アメリカで日本を売りものにして結成されたサーカス団のポスターなども紹介。他にも、歴史に名を残すフラテッリーニ兄弟やフェルナンド・サーカスを彷彿させるオブジェや、アーティストが実際に着用していた豪華な衣装など、興味は尽きない。
作者不詳、浮世絵、1881年
collection J.-Y. et G. Borg © Yohann Deslandes
パリのヴァリエテ劇場では、毎週水曜から土曜までモリエールの『守銭奴』と『ドン・ジュアン』が上演中だ。舞台を現代に設定する演出が多い中で、衣装も舞台装置も当時のものを再現するスタイルを採用。主役は主に映画で活躍するミシェル・ブジェナー(クロード・ルルーシュ監督『レ・ミゼラブル』のアンドレ・ジマン役)で、金に翻弄される人間の性(さが)を鋭く浮き彫りにする好演だった。
『守銭奴』で主役を演じるミシェル・ブジェナー
© Philip Ducap / Fineartphography
南仏アヴィニョン・オペラを皮切りに、随時各地で上演されている創作『モリエールにインスピレーションを与えた通りのドン・ジュアン Dom Juan tel qu’il inspira Molière』が好評だ。ある巡業劇団が、スペインから有名な伝承を記した手稿を受け取る。手稿を読む団長が想像する劇のイメージが、そのまま観客の前で披露されるという趣向。当時巷で歌われていた歌を交え、いくつかの場面では人形を使って動きを出し、さらにコミカルな要素を多く取り入れて子供から大人まで誰でも楽しめるものに仕上げた。
◇初出=『ふらんす』2022年4月号