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「アクチュアリテ 食」関口涼子

食堂――〈食べること〉の社会性を考える


児童たちと給食をともにするマルタン・プランショ

 料理人というのは、自分や家族の枠を超え、大勢の、そして見知らぬ人のために料理を作り提供する職業だ。その「皆で集まって食を共にする」ことの意味を実践から考えようとする本が出版された。マルタン・プランショのOn veut du rab ! Eloge de la cantine (「おかわり! 食堂礼賛」 JC Lattès, 2026)である。

 著者は35歳の料理人で、これまでに、ガストロノミ・レストラン、バスク地方の自然志向を突き詰めた店、ニューヨークのエネルギーあふれるビストロ、アート財団併設のレストラン、高級イベントのケータリング、ローマのフランスアカデミーでの料理責任者など、そのつど異なった役割を果たす「集団での食」に関わってきた。そうして、今後の食を考える時、皆に開かれた場所としてのcantineを実現させていくことが欠かせないという結論にいたる。

 フランス語のcantineというのは、食堂、給食など、学校や会社、病院など集団のために食事を提供する場所を意味する。また、日常的に通う店、例えば仕事場の近くなどでしばしば昼食を摂る大衆食堂を「自分のカンティーヌ」と呼ぶこともある。いま、食堂と書いたが、プランショは、昨年、フランス文化庁主催のアーティスト・イン・レジデンスに「食堂」をテーマにしたプロジェクトで選出され、京都のヴィラ九条山に半年滞在した。まさに「食堂」をテーマに、学校の給食を取材したり、さまざまな食堂で研修を行ったり、また、工場にかりそめながら食堂をつくったり、アソシエーション企画のイベントやワークショップに参加したりしている。滞在中特に、歴史家の藤原辰史氏の「食堂について考えることは、社会について考えることだ」という言葉に感銘を受けたという。著者は、現在は良いイメージのないcantineという言葉、そしてその名で呼ばれる場所に、新たなイメージを与える、ないしは本来存在した人間的な交流を取り戻させることを願っているように思われる。

 読者の中には、彼が高級レストランで働いていた時、休憩時間はほとんどなく、窓のない部屋でできあいのサンドイッチをあてがわれて食べさせられていたというエピソードに驚く人もいるだろう。すべてのレストランでの現実ではないにせよ、料理人自身が人間的な食事の時間を持てているかどうかから「共食」の考察が始まることは示唆的だ。

 本書は、フランスでの地方選挙を前にして、政治がどのように国民の食生活向上に関わっていくかが今後の大きな課題だと述べている。食が政治だという意識をはっきりと持ち、自分でもアクションを起こしている料理人の貴重な証言がつまった一冊だ。

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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