本を食そう! マンジュ・リーヴル賞10周年
フランスは本に関わる賞が多いことで知られている。文学賞だけではなく、児童文学から歴史書、アート、科学書、ありとあらゆる分野の書籍を対象にした賞が存在し、料理書もその例外ではない。今回はそういった賞の中でも特別な賞を紹介したい。
Mange-Livresマンジュ・リーヴル(本を食そう)という名のその賞は今年で10周年を迎える。この賞の特徴は、レシピ本など、いわゆる料理本ではなく、広く食の未来について考える本が対象になっていること、そして、審査員は、ジャーナリストや作家だけではなく、料理人や農業関係者など、直接食に関わっている人が参加していることだ。そこには、わたしたちの食を巡る環境を、当事者自らの手で変えていこうという意思がうかがえる。
創設時から今までに受賞した本は、『世界の味と色』(発酵に関する文化人類学)、『蜂蜜、もう一つの人類の物語』など、伝統的な食文化を巡る研究書から、『生きたパンを求めて』や『皆でより良く食するために』など、ルポルタージュ的な本、または『赤い黄金の帝国』(邦題『トマト缶の黒い真実』)、『家畜の意味』など、あるテーマを巡っての告発・警告的な書籍もあれば、女性の畜産農家のエッセイ、摂食障害についてのフェミニズム的な本など、テーマもジャンルも幅広い。共通しているのは、どの本にも食べるという行為を問い直し、より良い社会につなげていこうというメッセージが見られることだ。
ほんの20年ほど前まで、フランスの料理本コーナーに見られるのはレシピ本やシェフ本ばかりで、歴史・人類学・社会学からの視点は少ない印象があった。存在したとしても、ごく僅かな読者を対象とした学術論文という趣だったが、この10年間でその傾向は大きく変化し、書籍だけではなく、食を巡るフェスティバルやシンポジウムでも、料理そのものがテーマになるだけではなく、エコロジー、フェミニズム、政治などとの関わりが重要視されるようになってきた。
今年の受賞作はフルール・ブルトーのCancer Colère(怒りのがん)という書物で、農業従事者が除虫剤などの使用によりがんを患ったり健康を損ねたりする現状に声を上げようと呼びかけるマニフェスト的な本だ。著者自身ががん患者という当事者であるだけでなく、書物のタイトルと同名の運動を立ち上げ、市民運動にまで広げたことが本書の受賞理由であったという。
この賞はもともと、「マンジュ・リール!(リール市を食そう)」というイベントの一環としてはじまった。右傾化が著しい現在のフランスにおいて、公的機関の補助を受けてもいる賞が、こういった本に賞を与えることは少なからぬ勇気のいる決断ではないかと想像する。この賞は年々メディアで取り上げられることが多くなっているが、それは、一般的にも食を巡る環境に懸念を抱いている人たちが増えている証拠なのかもしれない。



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