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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

続、カンヌ国際映画祭 ナチス占領下から現代の悲劇まで


アントワーヌ・レナルツ主演のL’Abandon

 前回ご紹介した今年のカンヌ国際映画祭について、引き続き受賞作や、コンペティション以外で話題となったフランス映画について触れたい。パルムドールこそ、クリスティアン・ムンジウ監督のFjordに譲ったものの、主演のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が揃って女優賞を授与された濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』は、映画の大部分がパリ近郊で撮影されたフランス映画である。すでに日本で公開されているので詳細は省くが、原作の往復書簡をもとによくここまで独創的な物語を作りあげたものだと驚かされる。特異なシチュエーションにより、赤の他人が短時間に家族以上の絆を育む。そこに人間社会への希望が漂う物語は、主演のふたりの心通い合う演技があってこそ説得力を増したのはもっともで、納得の受賞だった。

 脚本賞に輝いたのは、エマニュエル・マーレ監督がナチ占領下のフランスで時流に流される官吏とその家族を描いたNotre Salut。一見ドキュメンタリーのような撮り方でありながら、独特の質感に満ちた映像表現に味がある。主演のスワン・アルローの演技を含めて総合的に評価の高かった作品だが、脚本賞におさまった。

 ある視点部門で審査員特別賞を取ったルイ・クリッシー監督のアニメーションLe Corsetは、背骨矯正のコルセットをつけざるを得なくなった少年の成長譚を、イマジネーションあふれる映像で描きアニメの可能性を広げてみせた。カンヌ・プレミア部門で披露された、ダニエル・オートゥイユが実話をもとに監督、主演したLa Troisième nuitもナチ占領下の物語で、ユダヤ人の子供たちを強制収容所送りから救った神父とレジスタンス仲間の活動を描く。暴力描写を抑制しながらも人間の倫理観へ問いかける、確かな演出力が冴える。

 カンヌと同時に劇場公開されたL’Abandonは、2020年、イスラム過激派の男に斬首され殺害された中学教師、サミュエル・パティ氏の最後の11日間を、ドキュメンタリー・タッチで描いたものだ。ヴァンサン・ガランク監督が入念なリサーチのもと、事件に至った経緯を明らかにする。生徒がついたひとつの嘘から雪だるま式に事態が悪化し、さらに警察や司法の怠慢により凄惨な悲劇に至った様子が浮き彫りにされ、観終わってなんともやりきれない思いに駆られるとともに、今日「表現の自由」について説くことの難しさを痛感させられる。

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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