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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

ナチ占領下のパリで魂を売った親子


©Couramiaud / Laurent Lufroy - Photo : Christine Tamalet

 戦前に活躍したコリンヌ・リュシェールというフランス人女優をご存知だろうか。1921年にパリに生まれ、17歳で出演した『格子なき牢獄』(1938)で一躍脚光を浴び、第二のグレタ・ガルボとも言われたスターである。19歳ですでに8本の出演作を数えたが、早くに結核に罹り銀幕から遠のく。終戦と共に対独協力の新聞を刊行したジャーナリストの父ともども逮捕され(父親は銃殺刑となる)、釈放された後、弱冠28歳で病に命を奪われた。

 そんな彼女と父親の物語を、コリンヌの回想という形で描いたグザヴィエ・ジャノリ監督の新作、Les Rayons et les Ombres (光線と影)が公開された。

 もっとも、本作はむしろ父親ジャン(ジャン・デュジャルダン)が主役である。もともとは左翼系で1927年に新聞Notre Tempsを創設した彼が、後にナチスにスカウトされドイツ大使となってパリを統括したオットー・アベッツ(アウグスト・ディール)と友情を育み、次第に堕落し、反ユダヤ主義者になっていく。一方、父に溺愛されたコリンヌ(ナスティア・ゴルベワ)は盲目的に彼に追従し、ナチ占領下のパリのデカダンな享楽にふける。

 ユダヤ人が収容所送りになっているのを知りながら、地位と贅沢な暮らしのために魂を売るジャンと、世間から乖離した泡のなかで生きたコリンヌ。ふたりがそれぞれ結核に侵されていく過程は、まるでその精神が腐敗していくことのメタファーのようだ。3時間を超える一大絵巻のなかで、ジャノリ監督は占領下のパリの背徳的な世界を煌びやかに描写しながら、人間の邪悪さと弱さを見せつける。本作はジャノリとジャック・フィエスキのオリジナル脚本に拠るものだが、題名はヴィクトル・ユゴーの作品から拝借している。因みにジャノリは前作『幻滅』(2021)で、もうひとりのフランスの文豪、オノレ・ド・バルザックを取り上げたが、奇しくも新作には、『幻滅』との類似性が見られる。『幻滅』でも純朴な青年が金と快楽に目が眩み、ジャーナリズムの世界で身を滅ぼしていった。欲望とモラルの葛藤はこの監督が好むテーマなのかもしれない。

 デュジャルダンは近年ないほど重厚な演技を披露しているが、特筆すべきは娘役のゴルベワ(『ポーラX』( 1999)のカテリーナ・ゴルベワの実娘)だ。大役は初めてにもかかわらず、母親譲りのメランコリーと激しさの融合が悲劇性を加速させ、観る者の胸を抉る。

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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