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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第69回 10月28日の観察

 NYのなわばりから戻ったみゃおわおにまたもや、え、気づかなかったわ〜、モードで接するこちゅみ。帰ってきて1日だけおうちにいたと思ったらまた3日続けてお留守番させているので、さすがに関係がギクシャクしている。撫でて欲しいから近くにきたのにブラシで梳かされたり、爪切られたり歯を磨かれたりするので相当ウザそうだ。それでも帰ってきたことについては嬉しく思い、ほっとしてくれているように見える。

 最初の夜はソファ、次の晩は布団の足もと、3日目の明け方にはみゃぁ、と眠るわたしの耳元でか弱く鳴いて待っている。半分寝ながら、ぼんやりした頭のまま胸元あたりの掛け布団を重たい腕で持ち上げると、三角形の隙間に頭からゆっくり潜り込んできて、しっぽを立てた尻をわたしの顔前で止める。お尻の穴を見せてくるのはわたしを母と思ってのことなのか。期待に応えたいが、母猫みたいに舐めてあげることはさすがにできないのでそっとお尻を下から上へ撫でる。すると満足してあゆみを進め、こんどはすっぽりと布団に入る。ぐるんとまわって向きを変え、顔だけ外に出して寝そべる。両手を揃えてわたしの腕に乗せ、またそのうえに自分の顎を乗せてグルグルグルグルグルグルグ‥‥と喉でいいながら目を瞑る。

 今日はようやく家に居られる。久しぶりにダイニングテーブルで仕事をしていたら、こっちゃんが背後でみゃあみゃあと、なにか訴えてきた。ちゅんちゃんの欲しいものはママ分からないのよ。そう言ったあと、おしゃべりボタンを一つずつ押しながら、これ?と欲しいものを尋ねていく。いまや使用頻度のもっとも低い「ごはん」のボタンが、何度押しても「ごっ‥‥」としか言わない。みんな、間違えて踏んだりするから壊れちゃったか、それとも電池切れかなぁ。忘れる前にネットで注文しようとパソコンに向かう。昨日から稼働しているエアコンのほうから、じ‥‥という気配を感じて顔を上げると、温風が当たる真下にマトリョーシカみたいなこちゅみが鎮座し、瞳孔まんまるの金の目で、わたしの顔を穴の開くほど凝視していた。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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