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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第65回 8月25日の観察

 福岡出張から戻って玄関ドアを開けると、小気味よい音を立てて階段を降りてきたこちゅみは(は? ああ、そういえばこんな模様のニンゲンいたね! しばらくいなかったの、気づなかったわ〜)と、白鳥麗子ばりの強がりを炸裂させながら無事の帰還を喜んでいる(「こんな模様」‥‥ってやっぱ、シミソバカスのことでしょうか?)。

 そのようなこちゅみの態度もしかし、無理はない。このところ出張&外出があまりにも重なりすぎている。8月だけで3回、そして来月は何年かぶりの海外出張もある。こういうことはなぜか重なり、できるだけ楽しもうとは思うものの、旅が後半に差し掛かるとまるで禁断症状のようにこちゅみのことばかりが思い出される。暑すぎてバテてないかなとか、ちゃんとお水飲んでるかなとか‥‥心配の内容はなんでもよく、ただ後ろ髪を引かれ続ける。

 福岡に呼んでくれたリブリスコバコのみささんも猫好きで、オフの日には保護猫の施設と猫カフェに連れていってくれた。SNSで知ったイトネコさんは、お外で暮らすのが難しい主に高齢の猫を保護しているが、ちょうどそのとき地元の方が保護した茶虎の子猫がいたので見学に行った。茶の助くんは予想を裏切らない可愛さと元気さだったが、オトナ猫たちの可愛さが圧倒的すぎた。大人になってから保護された彼らがわたしのような「いちげん」に心を開くことはないが、あとから来た地元の常連親子には手のひらを返したように甘えていた。10歳を超えた猫の穏やかさを目の当たりにし、こちゅみとの未来が俄然、楽しみになった。

 そのあとに訪ねた猫カフェにはオーナーが保護した9匹の猫がいて、ほとんどの子が小太朗より大きかった。こうなるとやはり、こちゅみマンチカン説がますます信ぴょう性を帯びてくる。この日だけで14匹の猫に会ったのに、もっとこっちゃんに会いたくなった。初対面の猫ちゃんに逃げられがちなのは、(Gによれば)わたしが猫のペースに合わせずグイグイいくからなんだろう。そこへ行くと、こちゅみは嫌々だがちょっと抱っことかもさせてくれて優しい。

 帰りの飛行機を降りてiPhoneの電源を入れると、みささんからメッセージが届いていた。添付されていたのは、いかにも旅先で訪れそうな景勝地の空にでかでかと「うちの子」らしき猫の顔が浮かぶ写真だった。そう、何を見ても「うちの子フィルター」が被るのってまさにこんな感じ!と、シャムの顔をキジトラに脳内で置き換え、家路を急いだ。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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