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書評

【書評】金井真紀 文と絵 広岡裕児 案内『パリのすてきなおじさん』 [評者]清岡智比古

『パリのすてきなおじさん』
金井真紀 文と絵 広岡裕児 案内
柏書房 1600円+税


[評者]清岡智比古

思わず泣き笑いする、リアルな「今のパリ」

 かつて、こんな突撃ルポルタージュがあったでしょうか? 無類の“ 話させ上手” である金井真紀さんが、今回はパリに上陸。そこで見つけた「すてきなおじさん」たちに忍び寄り(!)、アポなしシナリオなし愛情アリ!で、彼らの“ 生活と意見” を聞き出します。これが面白くないはずはないです。

 登場するのは、「おしゃれな」、「アートな」、「おいしい」、「あそぶ」、「はたらく」、「いまを生きる」おじさんたち。とはいえみんな、この枠をはみ出し気味ではあります。(で、真紀さんはそれを温かく面白がる。いいなあ、こういうの!)

 おじさんたちの物語は、時にもの悲しく、時に勇気に満ちているのですが、まちがいないのは、読んでいると目の前に、「今のパリ」が立ち上がってくるということ。泣き笑いしながら読み終わったら、ぜひもう一度目次に戻って、おじさんたちの出自と今を思い出してみてください。するとそこに、いくつもの「線」が浮かび上がってくるのに気づくでしょう。たとえば「アルジェリア」なら…… 。

 「横柄な顔とすけべな顔を瞬時に」演じ分ける小劇場の役者ラシッド(36 歳)は、アルジェリア系の両親とはちがって、ムスリムであることをやめました。一方競馬場に通いつめる巨漢のムフーブ(92歳!)の場合は、アルジェリアで生まれ、21 歳の時フランスで警官になり、「一度も人を殴ら」ず勤め上げました。彼のモットーは、「夜に肉を食べない」です。さらに、パリ郊外でクスクス・レストランを営むマレック(45 歳)は、アルジェリアの先住民ベルベル人の子孫で、同じ出自である「ジダンやベンゼマ」のファン。そうそう、イタリアでオーダーしたスーツを着こんだ弁護士のレヴィ(39 歳)は、引き揚げてきたユダヤ系ピエ・ノワール(アルジェリアにいたヨーロッパ系植民者)の息子です……。もちろんアフリカ系(コンゴ共和国、スーダン、マリ、カメルーン、チュニジア)のおじさんも、アジア系、カリブ系、ヨーロッパ系のおじさんもいます。これが、「今のパリ」。

 大事なことを言い忘れてました。この本に登場するすべてのおじさんは、やはり真紀さんの手になるイラストでも紹介されています。これがまた、味わい深い。

 ああ、でも、わたしが一番心打たれた物語を語ってくれたロベール(89 歳)のことを書きたかったのに、紙幅が……。

(きよおか・ともひこ/明治大学教授。仏語・仏語圏の文化・都市映像論。著書『エキゾチック・パリ案内』『パリ移民映画』)

◇初出=『ふらんす』2018年4月号

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