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書評

【書評】デュシャン他『マルセル・デュシャン アフタヌーン・インタヴューズ ─アート、アーティスト、そして人生について』 [評者]北山研二

M. デュシャン/ C.トムキンズ 著
中野勉 訳
『マルセル・デュシャン アフタヌーン・インタヴューズ ─アート、アーティスト、そして人生について』
河出書房新社
2100円+税

[評者]北山研二

「私はアートではなくアーティストを信じる」

 本対談は、1964年に7時間かけて実施されたものの未公開のままでしたが、レディメイド百周年の2013年にアメリカで刊行され、この9月に翻訳刊行されたものです。

 デュシャンの生き方やアートについてかなり突っ込んだ明快な意見交換になっていて、「なるほど」と言い続けるうちに一気に読み終えられます。読み始める前は、日本ではすでにアートの事情通による要領のよい2 冊の対談集(『デュシャンは語る』『デュシャンとの対話』)が刊行されているだけに、「またか」と心配になりますが、対談相手のトムキンズはいまだ事情通ではないものの親しい関係にあるだけに不明なところを遠慮なく質問して、身構えないデュシャンに自由に語ってもらいながらアートやアーティストについての考えを明快に浮上させることに成功しています。また、そのトムキンズがのちに刊行することになる本格的なデュシャン論や伝記の執筆動機や情報源が気になっていた読者にとっては、本対談が原点なのだと分かります。

 さて、本書でとくに注目すべき点は、デュシャンが、アートの評価は見る人が決めるものであり5世紀はかかると言い、アーティストは金銭的誘惑からもアートを凡庸化する趣味からも逃れるために、1年に1作品の制作に留め、あらゆる束縛から自由になり、地下に潜るべきだと言い放つことです。つぎに、「運動」というアイディアを意識せずに描いた最初の絵は1911年の《肖像(デュルシネア)》であり、運動観念を意識したのは、矢印を記入した1911年末の《コーヒー挽き》であったことが詳細に語られていること。さらに、1937年のシュルレアリスム国際展では、天井に石炭袋を大量に吊るした会場を真っ暗にしてコーヒーの匂いで満たして絵を見るために観客に懐中電灯を渡し、1961年のシュルレアリスム展では開始1か月前から会場でニワトリを飼い、ひどい匂いを充満させて、展覧会で視覚と嗅覚を遭遇させたことが楽しく語られていて笑わせてくれます。その他、ネオダダやヌーヴォー・レアリスムとの親子関係や、《大ガラス》の脱絵画的制作方法、チェスとアートの対立関係、四次元の意味などがたどれて興味が尽きません。また、翻訳者による注付けは要を得ていて、デュシャン文脈をいっそう拡大できることでしょう。

(きたやま・けんじ/成城大学教授。訳書デュシャン『マルセル・デュシャン全著作』『マルセル・デュシャン書簡集』)

◇初出=『ふらんす』2018年11月号

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