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書評

【書評】中條忍『ポール・クローデルの日本:〈詩人大使〉が見た大正』 [評者]朝比奈誼

中條忍 著
『ポール・クローデルの日本:〈詩人大使〉が見た大正』
法政大学出版局 4700円+税


[評者]朝比奈誼

〈巨人〉の多重的な活動の軌跡

 今年はクローデル生誕150年、さまざまな行事がならぶ。日本におけるクローデル、という企画なら、本書は参考文献の中軸になる。駐日大使を務めた1921(大正10)年から1927(昭和2)年まで、休暇帰国期間をのぞくと正味4年半の評伝なのだから。著者は、「日本への思い」と題した第I章で大使着任がただの人事異動ではなく、本人の夢の実現であることを明らかにしたあと、本論にはいり、「詩人」、「劇作家」、「外交官」という3章を柱にして、〈多重的〉な活動の跡を、外交資料をふくめた内外の豊富な文献を駆使して克明に解説する。『クローデルの滞日年譜』の編集を手がけたことのある著者は目配りが良く、「〈詩人大使〉の見た大正」という副題がぴったりの読み物に仕上げた。

 特に感慨深いのは、山内義雄のような日本文化の案内役に光をあてたこと。彼は『チボー家の人々』の訳者として年配者には懐かしい仏文学移入の開拓者だが、本書では26歳も年長のクローデルの「若い友人」である。とりわけ俳諧へ、さらに画家冨田渓仙へ導き、それが『四風帖』『百扇帖』に結実、クローデルの日本観は見事な花を咲かせることになった。

 圧巻は第Ⅲ章で、演劇専門の著者の本領が発揮される。クローデルは来日前に14本、在日中に『繻子の靴』を完成させ、離日後に10本の戯曲を書いたが、著者は「彼の劇作品を初期作品から見直してみると、日本滞在を境に大きな変化が生じている」と指摘、その変化を要約して、「来日前の作品では、筋が通時的に進行しているのに対し、離日後の作品では、いったん時間を遡行したうえで展開していく」という。ここに、著者はクローデルが好んだ能、とりわけ複式夢幻能の影響を見てとる。ワキに招かれて舞台に登場するシテが過去を再展開するのだが、それは本質化された過去、「一個人を越え、万人に共通する過去」であり、「舞台はそうした過去を映しだす〈鏡〉となる」。こうして、クローデル劇と能との関係が熱く語られる。

 そもそも86年におよぶ生涯は代表作『繻子の靴』さながら世界大にひろがっているから、巨人の正体の把握は容易ではない。しかし、本書は対象を滞日期間にしぼったから、クローデルという人間、作家の抱える問題が局限され、そのぶん、凝縮された形で全体像を浮き彫りにできたといえる。

(あさひな・よしみ/立教大学名誉教授。著書『フランス語 和訳の技法』『コトバの壁』『デカルトの道から逸れて』)

◇初出=『ふらんす』2018年6月号

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