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書評

【書評】コルバン他監修『男らしさの歴史』(全3巻) [評者]高岡尚子

A.コルバン、J-J.クルティーヌ、G.ヴィガレロ 監修
鷲見洋一/小倉孝誠/今村傑 監訳
『男らしさの歴史』(全3巻)
藤原書店 各8800円+税


[評者]高岡尚子

その全容を跡付ける初の試み


 執筆者40名を擁する本書は、西洋における「男らしさ」の実態と変容を「歴史」として跡付けようとした初の試みであると同時に、すでに、この分野における決定版の様相も呈している。それほどに大掛かり、かつ細密な本書は三巻本で、第一巻は「男らしさの創出」にあてられ、古代から啓蒙時代までを対象としている。第二巻は19世紀を「男らしさの勝利」ととらえ、続く第三巻は、20世紀から21世紀を「男らしさの危機」の時代か?と問いかけている。

 本書における「男らしさ」とは« virilité » のことで、単に「男であること=男性性」« masculinité » とは区別して使われている。それは力強さと徳が統合された理想の姿であり、それゆえに確信に満ちた支配力の源泉となりうるのだ。その表れ方は多様であり、変容もする。本書では、古代ギリシアから21世紀までを扱いながら、王族、貴族、僧侶、戦士、軍人、農民、労働者など、社会において異なる役割を果たす男たちのあり方が、詳細に跡付けられている。また、「男らしさ」をはかる行動の指標として戦闘、スポーツ競技、決闘、旅、冒険などがあげられ、男性たちに求められた振る舞いと評価についても説明される。さらには、「男らしさ」を保証するうえで重要な性的エネルギーや性的指向の問題についても、医学的見地など、さまざまな角度からの研究結果が盛り込まれている。

 原著の魅力のひとつは、各巻のセクションごとに配置された数多くの図版で、その内容は古代ギリシアの彫刻から宗教画、解剖図、雑誌の挿絵、映画のポスターまで多岐にわたる。それは、訳書においても口絵の形で踏襲されており、読者はイメージの数々に導かれて、男たちの移り変わりの歴史を、ときには驚きを持ってひもとくことになるのだ。

 この大作を日本語で読めることの重要性は言うまでもない。2000頁を超える訳書を通読するのは確かに大変だが、その経験が意味するところは、特に1970年代以降、性に関する私たちの関心がいかに複雑化してきたかを再確認することである。強く支配的な「男らしさ」に、弱く従属的な「女らしさ」を対置させる構図が、もはや、ほとんど機能し得ない現在、その間にある幸福な性のあり方を模索するためにも、ここで「男らしさ」の全容をかえりみる機会を与える本書の意義は大きい。
(たかおか・なおこ/奈良女子大学教授)

◇初出=『ふらんす』2017年12月号

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