【書評】ドラッカーマン『フランスの女は39歳で“女子”をやめる:エレガントに年を重ねるために知っておきたい25のこと』 [評者]岡部杏子
パメラ・ドラッカーマン 著 鳴海深雪 訳
『フランスの女は39歳で“女子”をやめる:エレガントに年を重ねるために知っておきたい25のこと』
CCCメディアハウス
1500円+税
[評者]岡部杏子
アメリカ人女性ならではの「フランス人像」
近年フランスもののエッセイが熱い。例えば、ドミニック・ローホーの『シンプルに生きる』は、身の回りのものを厳選し、余計なものを持たないことが豊かな生活の秘訣である、という価値観を日本に浸透させた。このフランス人ならではと唸らされる “質素だがシック”な生活をアメリカ人女性の視点から紹介したライフスタイル・エッセイ『フランス人は10着しか服を持たない』もベストセラーとなった。彼女たちの著作に共通するのは、「削ぎ落とす」という行為、いわゆる「デトックス」が鍵となっている点だ。この「量より質」というエスプリが、消費大国・日本で好評を博したのは、「フランス人は個性を重んじ、自分のスタイルを貫いている」という、多くの人々が抱いている憧れのフランス人のイメージにそぐうからだろう。とりわけ後者は、アメリカ人が語るフランス流、というコンセプトゆえに、フランスを異国として眺めるという視点を、我々日本人も共有できる。そこからさらに、アメリカ人女性のまなざしをとおして、フランス人独特の美学を発見するという重層的な読書体験を味わえる点も面白い。
本書の著者パメラ・ドラッカーマンもアメリカ出身、イギリス人の夫を持つパリ在住のジャーナリストだ。エッセイ『フランスの子どもは夜泣きをしない』が世界的なベストセラーとなり、一躍子育て本のエキスパートとなった。そんな彼女が今回選んだテーマは「中年の危機」。日本で言う“アラフォー”に突入した著者が、「最近マドモワゼルと呼ばれなくなった」ことに気づいたのをきっかけに、40代をどう生きるべきか、という実直な問いに挑む過程が率直に綴られている。聞こえ方、病気といった体の変化から、自分のルーツを知る、空気を読む、など心に関するトピックが25本。「ならば、年相応の落ち着きを!」と焦りつつも、もはや先延ばしにはできない事柄と向き合う著者の姿は、皮肉にも若々しさが溢れている。また、「デトックス」ではなく「ボトックス」という語が出てくるのも上述した二人のエッセイとは真逆だ。この足りないものを補おう、という信念こそが著者の「らしさ」であるように思う。その足りないものは、フランスでの日常から浮かび上がるのだが、日本の読者も思わず頷いてしまうものは少なくない。各章ごとの“40代あるある”も必読である。
(おかべ・きょうこ/学習院大学ほか非常勤講師。共著『象徴主義と〈風景〉』、訳書アファナシエフ『声の通信』)
◇初出=『ふらんす』2019年10月号