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福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第9回 社会の中でのフランス語

受験とフランス語

クニー:ヨシ、12月です…。

ヨシ:クニー、どないしたんや、青ざめた顔して。瀕死のイエっさんみたいやで。

クニー:だってこの時期になると思い出すんです。Je me souviens... ヨシもそんなことないですか? 12月は受験最後の追い込みの時期だって……。

ヨシ:ああ、せやなあ。懐かしなあ。『蛍雪時代』とか。あと『大学への数学』もお世話になったなあ。

クニー:『大学への数学』! 理系受験生のバイブル! ヨシもぼくも共通一次試験組だから、たとえ文系でも5教科7科目やらなくちゃいけなくって、数学の勉強といえば、この雑誌でしたね!

ヨシ:けど、載ってる問題見て、数学劣等生のぼくは、理系やないことを確信したわ。

クニー:同感! でも、いまふと思ったけど、この『ふらんす』、高校生で読んでる人どれくらいいるんだろ……。

ヨシ:もしおったら、ぼくら二人で会いに行って、祝福の鐘を鳴らさなあかん!

クニー:フランス語を受験科目として出題する大学が少ないし、あったとしても受験生が少ない。そもそも日本で第2外国語を学んでいるのは、高校生全体の約1.5パーセントに過ぎないという現実があるからね。

ヨシ:その中でぼくの大阪市立大学と、クニーの慶應の湘南藤沢キャンパスでは、多言語入試をやってるわけやね。うちの大学では、英語の問題の1題を、そのまま英語で続けてもええし、英語の代わりに、独語、仏語、中国語、韓国・朝鮮語のどれかの問題を選んでもろてもかめへん。

クニー:うちはまだ独語と仏語だけだけど、同じく英語の問題の一部を英・独・仏から選択する形式です。英語をメインに勉強しているけど、英語以外の外国語も学んでいる高校生を少しでも励ませればという思いと、これからは英語以外の外国語も学ぶべき、というメッセージをこめています。

ヨシ:確かに大学まで外国語を1つしか勉強しない国ってそうそうあれへんね。フランスだと、小学校の段階で外国語教育が始まり、5e(サンキエーム=日本の中学1年生に相当)で2つ目の外国語学習が始まるもんね。ちなみに、外国語科目は、langue morte「死んだ言語」=古典のラテン語、ギリシア語との対比で、LV = langue vivante「生きた言語」て呼ばれとるね。

クニー:外国語教育って言っても、早期教育の是非、言語自体を教えるか、文化も大切か、コミュニケーションを重視するか、など考えることはいっぱいだけど、それでも日本社会の中でぼくは英語以外の言語も学ぶ大切さを訴えていきたいよ。

ヨシ:ことばを学ぶことは、それだけで、そのことばを話す人に興味・関心を持つきっかけになるしね。

クニー:それがひいては「他者受容」、自分とは異なる人を受けとめ、寛容な態度を取ることにつながるってぼくは信じてる。

 

中学校でフランス語

ヨシ:クニーは第 2 外国語を教えている中学・高校に訪問して、授業を観察したり、講演をしたりしてるんやね。

クニー:そう。今まで 10 校以上見学をさせてもらいました。最近は学生と一緒に出張授業もしています。

ヨシ:どないな授業してんの?

クニー:先日訪問した中学校は、フランス語必修のクラスを設けている学校なんだけど、1 年生にフランスやフランス語についてのクイズを出して、グループで相談しながら答えてもらいました。各グループには相談が活発になるように大学生にファシリテーターで入ってもらいました。

ヨシ:ほほう、クイズとな?

クニー:たとえば「『ドラゴン・ボール』はフランスでも大人気ですが、そのまま発音しても通じません。さてどこを工夫する?」はい、みんなで相談して!

ヨシ:フムフム、ドラゴンは dragon やから、まず[l]と[r]、それから[dra]って 1 音節で発音せなあかん……ってそれ、フランスの人気 youtubeur、シプリアンCyprien のネタやん!(https://www.youtube.com/watch?v=KdsRK3QhB9U

クニー:そうです~! あとはこの夏、フランスの一部の市で禁止されたブルキニの問題も出しました。この絵をみてNon ! と言われたのはどれでしょうって。

ヨシ:政治・文化的な話題やけど、中学生たちには難しなかったん?

クニー:経緯だけは説明して「あとは自分たちで考えてみて」って言ったら、みんなうなずいていた。どうしてこんなことがフランスでは問題になるのって不思議な気持ちだったみたいだけど、でも「不思議」が学びの最初だよね。

ヨシ:暗記することより、考えることを大切にすれば、みんな自分で動き出すんだよね。そのときに大事なのがグループワークで、「ああかな、こうかな」って、いろんな意見がでてくることが肝。

クニー:あと、最後に「質問どうぞ」って言ったら、「先生はハーフですか?」って聞かれた。

ヨシ:ククク……で、何て答えたん?

クニー:「ハーフじゃないよ。でもフランスで、『あなたは○○人ですか?』って聞かれたことあるよ。さて何人でしょう?」ってまたクイズ大会。ハイハイハイハイ!っていろんな国名を言ってくれて、そして見事当てた生徒がいたんだ。

ヨシ:答えは?

クニー:Vous êtes laotien ?「ラオス人ですか?」しかも電車の中で隣に座ってた人に突然尋ねられた。

ヨシ:でもフランスやったらラオス人と言われたかて意外やないよね。

クニー:そしてそこからまたフランスの近現代史へ話が広がってゆくよね。

 

市民として生きる

ヨシ:グループワークいうたら、フランスでも今年の中学での改革の目玉のひとつにaccompagnement personnaliséがあったね。直訳すると「個人学習支援」で、個々の生徒の必要にあわせて細かい学習を可能にするためやけど、それでもクラスサイズより小さいグループで学ぶことに主眼が置かれている。

クニー:最近観た映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(Les Héritiers受け継ぐ者)は、パリ郊外の高校の問題児クラスを舞台にして、全国歴史コンクールに出場する生徒たちと先生の交流を描いた作品だけど、先生は共同で学ぶこと(travailler d’une manière collective)を大切にしてた。そして、単に調べるだけではなくて、調べた上で、それに基づいてあなたは何を考えるかと問いかけ、その考えをみなで共有することも同時に大切にしていて、とても良い映画だったよ。

ヨシ:つまり教室がちゃんとお互いをきちんと認めあう空間になってるいうことやね。ぼくが授業で実践している「協働学習」も、やはり《他者》とつながりあっていくことが目的のひとつ。

クニー:僕は、市民と大学生が共同して進めている弘前大学のプロジェクト「弘前×フランス」にも関わっているんだけど、ヨシも、一般の市民の人々とも《協働》のプロジェクトをしてるよね。

ヨシ:うん、フランス語とは関係ないねんけど、たとえば演劇のプロジェクト。ぼくは学部時代からずっと演劇をやってんねんけど、大学のプロジェクトの一環で、大学の近所のひとたちと地域防災劇団スミヨシ・アクト・カンパニーを立ち上げて、公演してんねん。そうやって、地域に新しいコミュニティができると、人と人のつながりが増えていって、その「絆」が防災・減災につながるいう理屈や。

クニー:大学の教員だとしてもそれだけが人生の全てじゃない。大学の枠を超えて、いろんな人とつきあってる。そこに実は僕たち自身も大きな「学び」の可能性を感じるんだよね。

ヨシ:それこそが「コミュニティの創発」。肩書きにとらわれず、いろんな人と交流をしてゆくと、自分の可能性も広がるわけや。

クニー:いいね~。社会人も中学生も大学生も、それぞれが連帯してゆるやかなフランス語コミュニティが作れたらなあ。

ヨシ:そりゃ、まさしく雑誌『ふらんす』のミッションやで!

 

◇初出=『ふらんす』2016年12月号

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著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

  2. 國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)

    慶應義塾大学教授。仏語教育・仏文学。著書『基礎徹底マスター!フランス語ドリル』

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