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福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第7回 フランス語の教え方と学び方

フランス語教育学会

ヨシ:いやー、クニーとの放談もはんぶんこえましたなー。

クニー:まさか、こんなに続くとは……。

ヨシ:待った待った、1 年の連載なんやから、あたりまえやん。まさか、途中で打ち切られる前提で、このシゴトを……。

クニー:なにをいってるんだ、ぼくとヨシの仲じゃないか。ヨシとクニーといえば、「ポールとヴィルジニー」Paul et Virginie のごとく結ばれている! Jeunes gens si tendrement unis !(若きひとらは、かくも心から結ばれているのだ!)

ヨシ:なんで、急にベルナルダン・ド・サン=ピエールBernardin de Saint-Pierre(1737-1814)──あ、これ苗字ね。下の名前はジャック= アンリJacques-Henri──の、しかも悲劇的な最後の小説を? 

クニー:あるいは「アベラールとエロイーズ」、または「ピエールとジャン」、もしくは「ヘドバとダビデ」のようにっ!

ヨシ:最後のは仏文学やのうて、昭和の歌謡曲を歌とてたイスラエルのコンビや。

クニー:じつは、ダビデことDavid Talは、フランス出身なのさ。

ヨシ:そんなトリビアはええから。

クニー:思いおこせば、えーとあれは……。

ヨシ:おこせてへんがな。

クニー:あれは、日本フランス語教育学会の全国大会が早稲田大学であったとき。

ヨシ:ああ、あのときね。当時、学会の理事やったぼくらは、大会会場の設営いっしょにやったなあ。ぼくなんか、前の晩にじぶんの大学で、おおきな立て看板に貼る「日本フランス語教育学会」いう紙を印刷して、朝イチの新幹線にのって、「早大9 時集合」に駆け付けたもんやった。

クニー:あれが、ぼくとヨシの仲の始まりだった。以来、えーとウン年……。

ヨシ:わかったわかった。まあ、われわれは、斯様に、フランス語教育学についてもベンキョーしてるわけやけどね、クニーは、なんでまた、フランス語教育学会に?

クニー:そりゃもう、お世話になった先生に「國枝君、先生になったら、学会は関所だからね」って言われて。

ヨシ:関所?

クニー:そう。要は税金ですね。学会存続のために、会員になって会費払えと。それでなりましたー。

ヨシ:ほほー。ぼくは、フランス語の教師になったんがきっかけで、教育への関心が生まれてね。連載の1 回目でもいうたけど、いまや研究の一部にもなってんねん。

クニー:そういえば、ヨシは、最初はComputer Assisted Language Learning、いわゆるCALL(コール)の研究をしてたらしいね。

ヨシ:この手の論文の最初のやつは、1995 年に書いた「外国語教育におけるMD 利用法」いうやつやね。

クニー:MD ! いまや、懐かしアイテム!

ヨシ:1992 年11 月の発売から1 年後にMD プレーヤーを買うて、カセットテープをはるかにしのぐ利便性に歓喜したもんや。

クニー:まさか、こうも早く廃れるとは。Apple 社の「グッバイMD !」って宣伝、あれで、ひとつ時代が変わったねー。

ヨシ:いまや、音声は電子ファイル。PC のソフトやスマホのアプリを使こたら、フランス語の発音かて、センテンスごとどころか、単語ごとに切り分けて、くりかえし聞けたりするわけや。

クニー:音源も、Podcast やらなんやら、ネット上にたくさんある時代になったしね。

ヨシ:Text-to-Speech いうて、打ちこんだフランス語をかなり自然な合成音声で読み上げてくれたり、逆に、こっちが話したフランス語を認識して、文字に変換してくれたりするソフトやアプリもあるさかいね。フランス語の練習に使わん手ぇはあれへん。

クニー:授業をする側にとっても、機器の進歩はありがたいねえ。

ヨシ:言語教育系では、外国語教育メディア学会、略称LET いうとこにも所属してんねんけど、そこはもともと、LLなんかの機器利用を研究する学会で──まあ、いまは、手広く、言語学習や言語習得に関係する研究、いわゆる応用言語学の分野の発表がされてますけど──、いろんな機器利用法が研究、発表されとるね。

クニー:ヨシも、シャドーイングの実験なんかしてたよね。

ヨシ:2007 年に書いた「フランス語学習におけるシャドーイング導入とその効果について──二つの実験とアンケートから」いう論文やね。PC からながれる音声をおっかけるように発音していく──影(シャドー)のように付き添っていくんで「シャドーイング」いうわけやけど──練習法でね。

クニー:実験では、どういう結果に?

ヨシ:シャドーイングのときに、発音されてる文章をみながらやるか、音声だけで文章はみずにやるかの違いをチェックしたんやけど、文章みながらシャドーイングした方が、その後のリスニング力がよりアップしたいう結果になってん。

クニー:なんと、まあ。

ヨシ:ぼくの実験結果はさておき、シャドーイングはオススメでっせ。既存の音源の発音が早すぎると感じたかて、音程変えずに、再生速度を変えられるフリー・ソフトもあるしな。

クニー:このあたりまでのヨシの研究は、教育工学の研究だね。

ヨシ:左様々々。

クニー:それが、いまは、そういった機器を使わない学習の研究になったと。

ヨシ:そもそも、20 年ほど前から、教育の世界では、「教えから学びへ」というトレンドになっててやね、「先生が学生に《知識》を注入する」いうのんはマチガイで、「学生がみずから《知識》を獲得する」いうのんこそタダシイいうことになってんねん。

クニー:あー、近ごろ話題の「アクティブラーニング」だねー。

ヨシ:その背景には哲学的洞察があって、そのせいで、なにが「アクティブ」かいうことには諸説あんねんけど、なんやかんやすんのは学生さんいうとこがポイントやね。

クニー:そのために、グループワークをやらせてるんでしょ?

ヨシ:さいだす。ほんで、その様子を動画に撮影して、0.1 秒単位で分析することで、学生さんたちの「学び」の実態をあきらかにするいうんが、現在の研究ですわ。

クニー:で、どういうことが明らかに?

ヨシ:あたりまえやけど、「学習」いうのんは、社会的なやりとりinteraction sociale の結果やいうのんが、ようわかります。

クニー:というと?

ヨシ:つまり、ニンゲン、独りでは学べん、いうこっちゃね。独りで「わかった」と思てることかて、ちゃんと「ことば」にせんと、《知識》にならんっちゅうこっちゃね。

クニー:ヨシが毎時間書かせて「ポートフォリオ」は、そのためのもんなんだね。

ヨシ:あと、ぼくらがアレコレいうたかて、ちゃんと「受けとる構え」になってへんと、まったくスルーされるね。教科書の説明も教師の解説も、たんに接しただけやと《知識》にならんてのがようわかるね。

クニー:ところで、「教師が《知識》を注入」せずに、学生中心に授業がすすむとなると、教師の役割ってどうなるの?

ヨシ:グループワークを観察・分析してるとわかるんやけど、「教える」いうことは「学ぶ」いうことやねん。他者に教えようとして「ことば」にすると、その時点で、自分自身にも気づきが起こるわけやね。

クニー:つまり、教師の役割は、一学習者として参加するということだね。

ヨシ:さすがはクニー、ようわかってる!

クニー:特集のアドバイスもよんでね。

ヨシ:古代ローマ帝国の哲学者やったセネカLucius Annaeus Seneca(BC1?-65)のことばに、ラテン語でDocendo discimus.(ドケンドー・ディスキムス)「われわれは教えることで学ぶ」いうのんがあるんやけど、まさに「教えることは学ぶこと」やね。

クニー:おっと、もう紙数が尽きたので、具体的な学習法なんかは、また次回ということで。そういえば、セネカには、Non scholae sed vitae discimus.(ノーン・スコラエ・セード・ウィータエ・ディスキムス)「われわれは学校のためでなく人生のために学ぶ」ってことばもあるよ。

ヨシ:まさに、フランス語のベンキョーも一生モンいうこっちゃ。

クニー:そういいながら、ヨシ、なんでスマホいじってんの?

ヨシ:いやあ、ポケモンも一生モンや。

 

◇初出=『ふらんす』2016年10月号

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著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

  2. 國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)

    慶應義塾大学教授。仏語教育・仏文学。著書『基礎徹底マスター!フランス語ドリル』

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