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福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第38回 日本の中等教育のフランス語

受験科目としてのフランス語

ヨシ:放談、4年目にはいりました。

クニー:こんなに連載が続くとはなあ─って、これ、前回もやったよ?

ヨシ:大阪と横浜に離れてんのに、「もしかして、わたしたち、入れかわってる?」って、岐阜出身のクニーが思うくらいで、いまやぼくは「関西のクニー」、クニーは「関東のヨシ」て呼ばれてとってやな。

クニー:いや、それも前回やったって。

ヨシ:まるで「北の狼 南の虎」みたいやから、いっそ「西のコアラ 東のパンダ」と名乗ってみたらどないやろ?

クニー:それは前回いってないけど、「ヨシとクニー」に関係ないし、もう水島新司の漫画の元ネタもわかんないよ!

ヨシ:まあ、そんなぼくらは、前回も報告したように、高校生フランス語暗唱コンクールの審査員を、東日本大会と西日本大会のそれぞれでやってるわけやけど、やってみて思うのは、いや、ほんまに、中等教育のフランス語の先生方の努力には、頭がさがります。

クニー:ことしは、西日本のコンクールが2月2日、東日本のが3月10日にあったんだけど、ほんとにそう思ったね。暗唱コンクールの維持には、なみなみならぬ努力が必要だろうしね。というわけで、今回は、中等教育でのフランス語教育のオハナシ。『ふらんす』も、今年度は、「中等教育の現場から」のリレー連載が掲載されててベンキョーになるよね。

ヨシ:クニーは、多言語入試の実現のために、むかし、ウチの大学へ視察にきたこともあったけど、中学高校でのフランス語教育について、どない考えてるん?

クニー:やっぱり、中等教育でのフランス語教育の大きな問題は、「大学受験の科目」になるかどうかじゃないかな。受験って目的がないと、非英語科目は普及しづらいけれど、受験科目となったとたんに、けっきょく「英語と同じ」になっちゃう。それでいいかどうか、悩ましい。

ヨシ:たしかにそうやね。むかし、大学入試センターのフランス語の作題委員をやってたことがあんねんけど、作題部会では、年に1回、高校の先生との面談があって、実情や要望を聞いたりしてん。

クニー:センター試験のフランス語は、受験科目そのものだもんね。高校の先生としては、「接続法」が出題範囲にはいってるとなると、やっぱりそこまで教えないといけないことになるんだろなあ。

ヨシ:そのとおりで、出題範囲は気にされとった。「受験」の影響力は大やね。

クニー:でも、中等教育での第2外国語、つまり非英語の教育は、縮小していかないかな、大学みたいに?

ヨシ:センターのフランス語受験者数は、微減傾向やね。


https://www.dnc.ac.jp/center/suii/suii.html から作成

このところは、だいたい100人ちょいで推移してるけど、センター試験を受けるのんは、フランス語を第1外国語としてる高校生だけやのうて、大学をいっぺん卒業してる人とかもおるからね。高校生はこのうちの半分くらいとちゃうやろか。

クニー:英語につぐ第2外国語としてのフランス語を学んでる高校生たちの数はどんなもんかな?

ヨシ:その点は、文部科学省の出してるデータがあるで。ただ、これ、ほんまに正確なんか疑わしいところもあったり。

クニー:お役所の統計だしねえ。

ヨシ:そこはまあ信用するとして、文科省が、2年にいっぺん調査してる「高等学校等における国際交流等の状況について」いうもんがあって(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/koukousei/1323946.htm)、そこで調べてる「英語以外の外国語の科目を開設している学校の状況について」いうのんを見ると、経年変化がわかるねん。1986年から実施してると書いたあるけど、いま見られるデータは2001年から。がんばってグラフ化してみました。

クニー:うーん、全体的に微減のようにもみえるけど……。

ヨシ:たしかに、前回の調査は減少やけど、その前6 年間は横ばいなんで、2018年のデータ公開がまたれるとこやな。

クニー:でも、ほかの外国語はどうなってるんだろう?

ヨシ:そっちもグラフ化しときましたで。

高校生の数も減ってきてるので、全高校生数を母数とした割合にしてあんねんけど、だいたい横ばいやね。中国語は漸減傾向で、韓国・朝鮮語は落ちることなく、増えていってる。非英語履修高校生全体の数も横ばいで、4万5千人前後やね。

クニー:フランス語は8千人弱。全高校生の0.2% ほどの数とはいえ、なんとか持ちこたえてほしいものだけど、文科省の方向性に左右されそうな気もするね。

中等教育での複数外国語学習

ヨシ:頼みの綱は高校で、非英語科目を開設してる高校の数も横ばい。ちなみに、参考データの中学校の非英語教育状況は、日本全体で20数校で、7言語にすぎへんものの、ちゃんと継続的に開講されとる。

こっちの履修者数は断トツでフランス語。しかも、全員私立中学の生徒さんや。

クニー:2千人以上の中学生がフランス語を学んでるわけだね。ぼくは、言語学習の目的は、批判意識の養成と他者理解─の難しさ─への気づきだと考えてるんだけど、言語そのもののスキルの学びとのバランスをどうするかが課題。中学生相手だと、もっと前者に時間をかけないといけないかも。

ヨシ:言語は他者とつながるためのアイテムやけど、他者との断絶にも使える両刃の剣やからね。

クニー:コンビニの外国人店員の日本語を笑いのネタにしたテレビ番組があったけど、あれはヒドかった。外国語の教育/学習は、まさに、こういったネタを批判できる学び手を育てることだと思うよ。

ヨシ:文科省お墨付きのCEFR(セファール)の理念である複言語・複文化主義からしたら、「理想的母語話者」なんかおれへんし、母語であれ外国語であれ、こどもや学習途上者や異邦人や障がい者なんかのことばを「ちゃんとしてへん」いうのんはスカタンなことで、「全き言語(いっちょまえのことば)」としてリスペクトせなアカン。

クニー:そういう点でも、中等教育での複数外国語学習はマスト・アイテムだね。

ヨシ:おっと、クニー、ぼくら英語つかいすぎやで。英語単一主義に毒されとる。

クニー:仏語教師じゃなくて反面教師でしたというオチ。

◇初出=『ふらんす』2019年5月号

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著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

  2. 國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)

    慶應義塾大学教授。仏語教育・仏文学。著書『基礎徹底マスター!フランス語ドリル』

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