第40回 パレードへようこそ
ラップとホモフォビア
ヨシ:いやあ、「きのう何食べた?」
クニー:えーと、きのうのお昼は─。
ヨシ:いや、いまのは質問ちゃうねん。先月まで放映しとったテレビドラマや。好評のうちに放映終了してんけど、ぼくは、原作の漫画も愛読してるし、原作者のよしながふみさんの漫画は、2001年から贔屓にしとって、『きのう何食べた?』についちゃ、よしながさん自身の手になる同人誌も持っとります。
クニー:ヨシの偏愛の漫画家だね。
ヨシ: このひとは、基本BL(Boys Love)作品を描いてきたひとやけど、青年誌の『モーニング』(講談社)で連載漫画を描くことになったとき、さいしょはふつうの漫画を提案したらしい。でも、企画練ってる途中で、いま描きたいのは、ゲイ・カップルの毎日の食事を描いた漫画やって告白したら、それが認められて、『何食べ』がはじまったらしで。連載にあたって決めたんは、セックスは描くまいと。せやから、ふつうの日常生活、しかもその半分は料理のシーンしか出てけえへん。ちなみに、18禁のとこは同人誌で描いてはる。
クニー:フランスでもBL というかYaoiとYuri 専門をうたうTaifu Comics みたいな出版社もあるくらい、BL漫画もふつうに翻訳されてるけど、仏訳はあるの?
ヨシ:いや、英訳はあるけど、仏訳はまだやねん。よしながさんの仏訳は、Le Pavillon des hommes『大奥』だけやね。
クニー:日本漫画翻訳大国のフランスとしちゃ、翻訳されてもおかしくないけど、ゲイ・カップルが題材なことは、ことさら話題にはならなそうな感じ。
ヨシ:「日本では同性婚は合法化されていない」とかのコメントがついた漫画評もあったりするけど、ゲイ・カップルであることにつっこんだ評はあれへんような。
クニー:フランスは同性婚を合法化してるし、ドラノエ前パリ市長みたいな同性愛カミングアウトしてる有名政治家もいるしね。
ヨシ:とはいうても、同性愛反対派も、依然として根強くおるねえ。
クニー:そういえば、今年5月のカンヌ映画祭で、名誉パルムドールla Palme d’or d’honneur がアラン・ドロンに贈られたけど、ドロンは人種差別主義者 raciste で同性愛嫌悪者 homophobe で女性蔑視者misogyne だから、授与しないでくれってネット署名が話題になったよね。ドロン自身は、「同性婚には反対しないが、同性カップルの養子縁組には反対だ」といってる。
ヨシ:テレビでは、「同性愛は、いうて悪いけどje suis désolé、自然に反するcontre-nature」いうとったからね。「そんなのをあたりまえにしている時代に生きるのはツライje vis très mal cette époque qui banalise ce qui est contre-nature」とも。まあ、「同性愛」じたいは、類人猿をはじめとする動物界にもあるし、人間さんでもすくなくない割合でいてはるわけやから、「反自然」てのは完全にまちごうてるわけやけど、83歳やし、「ありがちなジイさん」て思とくしかない。
クニー:でも、ドロンみたいなひとは、年齢に関係なく、たくさんいるよね。
ヨシ:若者にひろく浸透してるラップも、基本的に女性蔑視misogynie と同性愛嫌悪 homophobie とみられとるね。
クニー:ラップや、そのおおもとのhip hop は、アメリカの「悪ガキ文化」と親和性がたかいから、男性優位主義(マッチョ)で女性やセクシャル・マイノリティのひとには、差別的な歌詞やふるまいがおおいよね。
ヨシ:なにしろ、英語版のWikipedia にはHomophobia in hip hop culture いう項目があるくらいやからね。ラップ発祥地のアメリカやと、faggot やfag、つまり「オカマ野郎、ホモ野郎」ってことばが、攻撃的罵倒語として使われとったわけで、それをそのまま輸入してもうたとこもある。せやから、フレンチ・ラップ界でもpédé(pédéraste の略。PD(ペーデー) と書かれることも)やpédale やらの古くからあるゲイへの蔑称にくわえて、la tarlouze(男としてのパワーにかけるヤツ。ケベック仏語のtarlaから)とか、あらたな蔑称も使われるようになったりするわけやね。
クニー:でも、2012年7月に、米の有名ヒップホップ集団であるOFWGKTA(Odd Future Wolf Gang Kill Them All)のシンガーのフランク・オーシャンが、初恋の相手が男性だったと告白してから、いろんな反応があったけど、功成り名を遂げたラッパーたちは、いつまでも「悪ガキ」でいるわけにもいかず、「政治的に正しい」発言をするようにもなってきてるっぽいよ。
ヨシ:とはいえ、依然としてfaggot とかtarlouze を、fuck やputain みたいな「罵りコトバ」として使ことる。せっかく、ラップが、たとえば、ディアムスDiam’s のラップみたいな、反人種差別のプロテスト・ソングとして機能してきてるとこやのに、ザンネンなこっちゃ。なんというても「悪ガキ文化」だけに、そもそも「女性」ラッパー rappeuse が少ない。おまけに、ディアムスはイスラームに改宗してラップをやめてもうたし。
クニー:性差別にホモフォビアなままだと、「反差別」で連帯てわけにはいかないしね。
ヨシ:まあ、いわゆる「マイノリティ」側が一枚岩でないのんは、当然といや当然なんやけど、連帯してくれんと、反人種差別のパワーじたいも弱まってまうからね。
同性婚と生殖補助医療
ヨシ:ことしの5月17日には、台湾が、アジアで初の同性婚合法化にふみきったやん? これは、毎年5月17日が「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日」Journée mondiale contre l’homophobie, la transphobie et biphobie なんに合わせたわけやけど、これ、じつは、マルティニーク出身でオルレアン大学高等教職教育学校で准教授やってるルイ=ジョルジュ・タンLouis-Georges Tin が2005年に提唱してはじまったもんやねん。フランスでも、2013年の5月17日に同性婚法が合憲と判断されてるで。施行は翌々日。
クニー:でも、さっきのドロンといい、同性婚には賛成だけど、同性カップルの養子縁組adoption や生殖補助医療(PMA)procréation médicalement assistée や代理母出産(GPA)gestation pour autrui には根強い反対があるよね。
ヨシ:フランスで、2013年に同性婚法が成立したときにも、同性カップルの養子縁組は可能になったけど、法案の準備段階では検討されとったPMA でこどもを持つことは、けっきょく認められへんかった。
クニー:同性愛者のなかでも、PMA に反対のひとたちもいるとか。
ヨシ:せやねん。同性愛者たちのなかにも、同性婚法には賛成やけどPMA には反対とか、同性婚法じたいにも反対とか、いろんなひとたちがおるね。たとえば、Homovox.com みたいな「こどもには父親と母親が必要」いう、反同性婚法派とおなじ意見の団体もある。反対の理由もいろいろで、なかには、同性婚法は、そもそも異性愛者の制度を同性愛者におしつけるもんやからアカンいうひともおる。だいたい、異性愛者かて、こどもを持つことを希望しないカップルかておるからね。
クニー:なるほど、たしかに、法制度じたいはそこまで考えてないにしても、同性婚のつぎは養子縁組やPMA、GPA となると、「結婚したらこどもを持つのが当然」て価値観まで一連のものって雰囲気もあるね。
ヨシ:「こどもを持ちたいひとは持てるようにすべき」いう主張はアリやとしても、それが「こどもは持って当然」いう思想を前提にせえへんことがたいせつですわ。
クニー:同性カップルでも婚姻したくないひとたちもいるだろうしね。
プライド・パレード
クニー:そういえば、フランスでは、毎年6月の最終土曜日にLesbian & Gay Prideのパレード、フランス語ではMarche des fiertés があるけど、ことし2019年は6月29日だよね。
ヨシ:2014年のイギリス映画で、Pride(パレードへようこそ)いうのがあって、サッチャー政権下の1984年、85年、炭鉱労働者がストをやったときに、同性愛者団体が連帯の証しに義援金を送ったんやけど、炭坑夫組合側には、相手が同性愛者いうんで拒否るひとも出てくるねん。ほんで、いろいろあんねんけど、感動的なラストをむかえる。同性愛問題や連帯の根底にあるものを考えさせる映画やね。
クニー:炭鉱夫や同性愛者というレッテルを剝がして人そのものを理解しようと呼びかける映画! ザ・スミスやビリー・ブラッグの音楽も流れ、愛してやまない作品!
ヨシ:というわけで、今回は、ぼくが2000年6月24日にパリのパレードで撮った写真をみせてシメさせてもらいますわ。
「息子はゲイ、婿もゲイ」
◇初出=『ふらんす』2019年7月号