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福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第37回 何を教える? 何を学ぶ?

高校生フランス語暗唱コンクール

クニー:放談、4年目に入りました。

ヨシ:こんなに連載が続くとはなあ。

クニー:それぞれ横浜と大阪に離れているのに、「もしかして、私たち、入れ替わってる?」って思うくらい、意気投合できて、そのおかげでこれまで続けてこられました。今やぼくは「関東のヨシ」、ヨシは「関西のクニー」って呼ばれてるとか。今年はタイトルも「関西のクニーと関東のヨシのかっ飛ばし仏語放談」にしませんか?

ヨシ:せんでええわ。ヤヤコシすぎるがな、まったく。それでもぼくら結構同じ仕事をそれぞれしてたりすんねん。この間もぼくは西日本高校生フランス語暗唱コンクールの審査員やったけど、クニーも、東日本の審査員やっとったね。

クニー:第二外国語としてフランス語を学んでいる高校生を対象にしたコンクールだね。フランス語圏の作家の文学作品や評論作品だから、決して簡単ではない。でもしっかり覚えて、みなの前で堂々と発表できる高校生のみなさんには、ひとりひとりに拍手をおくりたい!

ヨシ:同感や。課題は用意された5つの200語から250語くらいの長さの文章からひとつを選ぶんやけど、ハイチからカナダ・ケベック州に移民したダニー・ラフェリエール、ブルンジで生まれフランスに渡ったガエル・ファイユ、そしてハンガリー出身でスイスに移住したアゴタ・クリストフとか、前回にひきつづき「フランス語圏テキスト」やったね。

クニー:どれも、じっくりと読んで内容をしっかり理解する価値があるテキストだね。もちろん参加できるのは高校生だけだけど、募集時期になると、テキストと音声が、アンスティチュ・フランセ横浜と関西のホームページに公開されます。誰でもアクセスできるので、ぜひ勉強の一助にしてください!

ヨシ:日本の高校で外国語を2つ学んでいる高校生は、全体のわずか1.4パーセントしかおれへん。だからこそ、さまざまな形で応援していきたいね。

クニー:若い高校生たちと一緒にいると、ぼくらはさながら大宅世継(おおやけのよつぎ)と夏山繁樹(なつやまのしげき)になった気がするね。

ヨシ:『大鏡』かいな。二人は190歳と180歳くらいやで! まあでも「年ごろ、昔の人に対面して、いかで世の中の見聞く事をも聞こえ合はせむ」やから、こないして昔からの友とあって、見聞きしてきたことや考えていることを、これからも放談していきましょ!

クニー:200歳まで続けましょ!

フランス語abécédaire - U, W, X

ヨシ:『ふらんす』4月号の特集は「フランス語のABC」。ぼくらも「始まり」をテーマに話そか。まずはその前に、「キヨオカ式 フラ語文法のABC」にはなかったアルファベで一言! Uで何かある?

クニー:U といえば……À la une !「新聞の一面」のこと。この場合はl’une にはならないんだ。はい次ヨシの番よ~C’est ton tour ! Wはいかが?

ヨシ: V をdouble ドゥブルに書いて「ドゥブルヴェ」Wやな。ちなみに英語ではU がダブルで「ダブリュー」。フランス語にはw を使った単語はのうてゲルマン系由来ばかり。注意したいのんは、wagon「ヴァゴン」、W-C「ヴェセー」と「ヴ」で発音する場合やね。はい、お次はX !

クニー:X も読み方に注意したいね。語の最初のx はまずだいたい[gz]「グズ」と発音するからXavier は「グザヴィエ」、xénophobe は「グゼノフォブ」。

ヨシ:xéno- は「外国の」、-phobe は「嫌い」なので、意味は「外国人嫌いの」になる。xénophile やと逆に「外国人に好意を持った」。映画好きはcinéphile「シネフィル」やで。クニー:語の中でもexercice「エグゼルスィス」のように[gz]と発音するけど、excellent「エクセラン」のようにxc は[ks]となるね。そして数字のsix「スィス」、dix「ディス」のx は[s]となる。

クニーのフランス語第1回目の授業

ヨシ:さっき言うたように、日本の高校生は圧倒的多数が英語しか勉強せえへん。ほんで大学で初めて英語以外の外国語の学習を開始する。せやからぼくもクニーも、4月は初心者をほぼ相手にするわけや。クニーはどんな授業してんのん?

クニー:まずはあいさつ表現かな。これから誰と同じクラスで勉強していくのか知るのがまず大事だから。

ヨシ:コミュニティ作りやね。クニーもぼくも、クラスのLINE グループを作って、教室外でも交流できるようにしてる。

クニー:最近は現実の社会問題に目を向けてもらうことも大切にしています。たとえば1 回目の授業で使うのはフランス政府がキャンペーンで作成したポスター。女性が二人写っていて、一人は「白人」で彼女の方には« À demain. » と、もう一人は褐色の肌をしていて、彼女の方には « Désolé, on ne cherche personne. » と書いてある。

ヨシ:« À demain. »「また明日」と« Désolé. »「すみません」は、この1 回目の授業でならう表現やねんな。でも« On ne cherche personne. »「誰も探していません」はちょっと難しい。

クニー: そう。だからここは直訳を与えて、グループで何の啓発ポスターか考えてもらうんだ。

ヨシ:テーマは就職採用の際の人種差別問題やね。「また明日」は「明日から来てください」。「誰も探していません」は「求人はありません」ってことで、それを言い訳にして採用を断ってんのやな。

クニー:そして最後にポスターのタイトルの解説。« Les compétences d’abord : le gouvernement lance une campagne contre les discriminations à l’embauche. » 「まずは能力を:政府は雇用における差別反対のキャンペーンを実施」。gouvernement やcampagne は英語から類推がつくね。学生に問いかけていると、discrimination を知っている学生もいる。英語とフランス語の類似も気づけるね。

ヨシ:話も発展していくね。たとえばnationalité「国籍」の話もできる。国籍は人間に生来的に備わったものではなく、取得するもの。せやから、Elle est française d’origine algérienne.「 アルジェリア系フランス人」みたいな「~系の」いう表現も、フランス語を勉強する以上、最初から身につけてほしなあ。

ヨシのフランス語第1回目の授業

クニー:ヨシの1回目の授業は?

ヨシ:ぼくが大切にしてんのは、フランスのイメージを拡張すること。フランスはイメージしやすい国やんな。でもそれはときに美食や観光だけにとどまってる。もちろんそのイメージも間違いやないけど、それはほんの一面に過ぎへん。せやから例えばフランス語圏のこととか、フランス語の歴史を、印欧語族にまで遡って話したりしてるで。

クニー:学ぶ人は、何も知らないんじゃない。これまでの経験から、一人ひとりが知っている内容は違っても、何かを知っていることは確か。でもヨシが言うようにそれが一面的だからこそ、学ぶ意味が生まれてくる。学ぶことはまったく新しい知識を得る面もあるけれど、自分の既知の知識を足がかりにそれを更新していくことだと思うよ。学ぶことはそれまでの自分が変わることを実感する体験でもあるし。

ヨシ:もうひとつぼくが重視しているのが協働(collaboration)。いうまでもなくことばはコミュニケーションの主要装置やからね。せやから授業中はずっとグループワークや。わからんとこを口に出し、教えたり考えたりするなかで、そして時には雑談からも、新しい《知》が生まれるねん。これ、ぼくの研究内容でもある。

クニー:まさに「三人寄れば文殊の知恵」Deux avis valent mieux qu’un.「 二つの意見は一つの意見より価値がある」だね。ただみながみな意見を出す必要はないとぼくは思っている。なかには相手の意見を聞くのは好きだけど、自分で意見を言うのは苦手っていう人もいる。それも人格のひとつとして、お互いの関係性のなかで認め合えればよいと思う。「自分の苦手なことは他の人が助けてくれる」って。

ヨシ:それが関係を作るってことやね。関係が生まれる場所で、学びも生まれてくるわけや。というわけで、ぼくらも「持ちつ持たれつ」でいこか!

◇初出=『ふらんす』2019年4月号

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著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

  2. 國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)

    慶應義塾大学教授。仏語教育・仏文学。著書『基礎徹底マスター!フランス語ドリル』

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