白水社のwebマガジン

MENU

福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第24回 フランス語圏とフランコフォニー

フランスとフランス語圏 
クニー:いやー、やっぱ、ブリティッシュ・ロックはいいなあ。
ヨシ:なんや、クニー、また、エゲレスもんの音楽きいてんのかいな?
クニー:ほら、この衝動、そして、それに呼応する体の震え!
ヨシ:はあ、さよか。にしても、フレンチ・ロックと、どこがちゃうのん?
クニー:フランスのロックはねえ、やっぱり、歌詞からはいる感じなんだよね。
ヨシ:歌詞がさいしょ?
クニー:そう。さいしょに歌詞を味わって、「ふむふむ、皮肉がきいとるわい」みたいな。それにたいして、ブリティッシュは、さいごに歌詞なんだよね。あくまでぼくの場合だけどねー。
ヨシ:おフランスは、やっぱり文学の国っちゅうわけやね。
クニー:むかし、留学中、フランスの友人が、「ロックが好きならトマ・フェルセンThomas Fersenとかどう?」ってすすめてくれたんだけど、その理由が「歌詞がいいんだよ」って。
ヨシ:なるほど、フランスの人は、ロックでも、歌詞優先なんや。
クニー:だから、ボブ・ディランみたいな、英語圏でも凝った歌詞をかくひとは、評価されるのかも。
ヨシ:まあ、ボブ・ディランがアメリカびとやっちゅうことからもわかるように、英語ロックいうたかて、ブリテン島のもんだけやあれへん。おんなしように、フランス語ロックいうたかて、六角形の国(ヘキサゴン)のロックだけとはかぎれへんね。
クニー:フランス語圏は、世界中にちらばってるからね。
ヨシ:というわけで、今回は、フランス語圏のハナシ。
クニー:え、ロックのハナシは ??
ヨシ:「六区」は浅草だけで充分や。

国際フランコフォニー機構
ヨシ:というわけで、まず、「フランス語圏」ということばについてやけど、これは、 « francophonie »の訳語やね。
クニー:フランスの地理学者オネジム・ルクリュOnésime Reclus (1837-1916) の造語らしいね。
ヨシ:そうそう。1880年に出したらしい『フランス、アルジェリア、植民地』France, Algérie et coloniesって本で使こてんねん。ちなみに、この本、仏国立図書館のオンライン・ライブラリー「ガリカ」Gallicaで、1886年版を読むことができるんやけど、そこの422から423ページに──Nous mettons aussi de côté quatre grands pays, le Sénégal, le Gabon, la Cochinchine, le Cambodge, dont lʼavenir au point de vue « francophone » est encore très douteux, sauf peut-être pour le Sénégal. / Par contre, nous acceptons comme francophones tous ceux qui sont ou semblent destinés à rester ou à devenir participants de notre langue : Bretons et Basques de France, Arabes et Berbères du Tell dont nous sommes déjà les maîtres. Toutefois, nous nʼenglobons pas tous les Belges dans la « francophonie », bien que lʼavenir des Flamingants soit vraisemblablement dʼêtre un jour des Franquillons. (さらに、4つの大国、すなわち、セネガル、ガボン、コーチシナ[ヴェトナム南部]、カンボジアも除こう。将来的に「フランコフォン」でありつづけるかというと、おそらくセネガルを除いては、それはすこぶる疑わしいからである。しかしながら、われわれの言語への参加者である、もしくは参加者となるべく定められている、あるいはそうみえる人びとを、フランコフォンに数える。すなわち、ブルトン人、フランスのバスク人、すでにわれわれがそこの主であるテル[アルジェリア]のアラブ人、ベルベル人たちである。しかしながら、フラマン語[蘭語系]話者が、いずれはフランキヨン語[ワロン語。仏語系]話者となりうるにしても、ベルギー人全体を「フランコフォニー」にふくめることはしない)が初出らしで。
クニー:なるほど、ルクリュは、世界中の旧植民地のフランス語の話し手を « francophone »、その人たちの集合体を « francophonie »と名づけたんだね。
ヨシ:ほんで、雑誌Éspritの1962年11月号のLe français, langue vivanteいう特集で、後のアカデミー・フランセーズ会員となる詩人にして、当時はセネガルの初代大統領やったサンゴールLéopold Sédar Senghor (1906-2001)が、「フランス語、文化の言語」Le français, langue de culture って文章を載せてんねんけど、ここに « Francophonie »いう、f が大文字になった単語が出てくるねん。
クニー:1962年といえば、3月18日のエヴィアン協定Accords dʼÉvianを受けて、7月にアルジェリアが正式独立した年だな。アフリカの植民地って、1960年代に続々と独立してたよね。
ヨシ: うん。で、サンゴール曰く、アフリカでの仏語教育は、まずもって政治的理由やろうと。けど、Cependant, la principale raison de lʼexpansion du français hors de lʼhexagone, de la naissance dʼune Francophonie est dʼordre culturel.(だが、フランスの外にフランス語を広めること、フランコフォニーというものが生まれることの最大の理由は、文化の次元に属している)。
クニー:なるほど、大文字のフランコフォニーは、単なるフランス語話者の集まりをこえた、精神的共同体ってことだね。
ヨシ:せやねん。ほんで、このサンゴールと、それぞれチュニジアとニジェールの大統領やったブルギバHabib Bourguiba(1903-2000)、ディオリHamani Diori(1916-1989)らが活動した結果、1970年3月20日に、Organisation internationale de la Francophonie、略称OIF(オー・イー・エフ)という組織が設立されるわけや。この機構は、2018年あたま現在、54か国・政体の正規メンバーと、4か国の準メンバーと26か国・政体のオブザーバー、合計84か国・政体から構成されてんねん。
クニー:政体っていうのは、ケベック州とかがはいってるってことだよね?
ヨシ:せやねん。仏英2言語を公用語とするカナダは、国単位で加盟してるけど、そのなかの仏語公用語のケベック州と仏英公用語のニューブランズウィック州は、州単位でも正規に加盟してるし、英語公用語のオンタリオ州は、準メンバーになってる。ほかにも、ワロン=ブリュッセル連盟、つまりベルギーのフランス語共同体も、ベルギーとは別に加盟してるで。
クニー:そういえば、日本でも、毎年3月20日に、あちこちで、「フランコフォニー・デー」とかやってる。
ヨシ:この機構、さいしょは「植民地主義」につながりかねんいうことで、フランスは乗り気やなかってんけど、1986年に第1回サミットをパリで開催してから、関わりを深めたらしで。以後、隔年でサミットやってて、2018年はアルメニアのエレバン、2020年はチュニジアのチュニスでの開催が予定されとる。事務総長は、1997年から設置されてて、初代は、国連事務総長もやったエジプト出身のガリBoutros Boutros-Ghali(1922-2016)、2代目はセネガル第2代大統領やったディウフAbdou Diouf(1935- )で、現在の3代目は、ハイチからの難民出身でカナダ総督になったミカエル・ジャンMichaëlle Jean(1957- )や。
クニー:OIF憲章の第1条に機構の目的が書かれてるけど、筆頭に来てるのは、民主主義の確立と発展なんだね──La Francophonie, consciente des liens que crée entre ses membres le partage de la langue française et des valeurs universelles, et souhaitant les utiliser au service de la paix, de la coopération, de la solidarité et du développement durable a pour objectifs dʼaider : à lʼinstauration et au développement de la démocratie(フランコフォニーは、フランス語を共有することで、メンバー間につくられる絆と、普遍的価値に意識的であり、その価値を、平和と協調と連帯と持続的発展のためにもちいんとねがい、つぎの諸点を援助することを目的とする。すなわち、民主主義の確立と発展)。
ヨシ:つまり、仏語の共有いうんは、べつに仏語話者がおらんでもできるわけで、2016年には韓国がオブザーバーに加盟してたりすんねん。じつは、1993年のブルガリア正式メンバー加盟を皮切りに、2012年のアルメニアにいたるまで、旧東欧諸国が加盟してんのも、じつは1991年にソ連が崩壊した後の政治的関係を強化する目的があるとも答えられんねん。
クニー:あー、政治に帰結しちゃうのか。ビートルズじゃないけど、文化的共同体へはlong and winding road だねえ。
ヨシ:いや、ほんま「曲がりくねったロックの風よ」やで。
クニー: それは「唐獅子牡丹」! ヨシてちょうだい。

◇初出=『ふらんす』2018年3月号

バックナンバー

著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

ランキング

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2018年9月号

ふらんす 2018年9月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

webふらんすのおすすめ本

フランス語作文ラボ

フランス語作文ラボ

詳しくはこちら
  1. jiji.com
閉じる