白水社のwebマガジン

MENU

福島祥行+國枝孝弘「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」

第20回 カナダと二言語主義

ケイジャンとアカディ
ヨシ:ラ~ヴレタ~♪
クニー:おっと、みなまでいうな! いいたいことは、わかってる。
ヨシ:さすがはクニー、同世代や。平尾昌晃さん、ことし7月に亡くならはった。
クニー:平尾昌晃といえば、「必殺シリーズ」の数かずの曲だよねえ。
ヨシ:さすがはクニー、同世代や。
クニー:にしても、この始まり方おおすぎない? どうせ、このまえ、カナダの憲法のハナシまでいけなかったから、今回はそのつづきをやろうって腹だろ?
ヨシ:さすがはクニー、同世代や。
クニー:同世代、関係ないっ。
ヨシ:というわけで、今回、カナダのハナシやで。クニー、カナダというたら?
クニー:アメリカで活躍したんだけど、メンバーはカナダ人のThe Band ってグループが好きで、なかでもAcadian Driftwood(アケイディアの流木)って曲がだいすきでねえ。「流木」っていうのは、まさに流浪の民となって、カナダからアメリカに流れていった人たちのことをさしてるんだけど、それがニューオーリンズでケイジャンになって、という英語の歌なんだけど、さいごのとこで、Jʼai le mal du pays. って、フランス語で「ぼくはホームシックだ」って歌うところが泣けるんだよなあ。
ヨシ:「ケイジャン」Cajun いうのんは、Acadian の訛ったことばで、もともと、いまのカナダのニューブランズウィック州とアメリカのメイン州のあたりのアカディAcadie、英語でアカディアAcadiaに住んどった仏系の人たちやってんけど、英国王への忠誠を拒否したせいで追い出され、南の方へ流れ流れて、いまのルイジアナに定住したんやね。
クニー:世界史で習う「フレンチ・インディアン戦争」のせいだよね。
ヨシ:フランスでは「征服戦争」Guerre de la Conquête というねんけど、これ、オーストリアのハプスブルク家が、プロイセンにたいして仕掛けた雪辱戦、いわゆる「七年戦争」の一環やねんな。オーストリア側についた仏とプロイセン側の英は新大陸でもモメとったわけやけど、1754年、弱冠22歳のジョージ・ワシントン率いるバージニア市民軍部隊が仏軍の撤収をもとめて攻撃したんが、フレンチ・インディアン戦争のはじまりや。
クニー:ワシントンてあのワシントン?
ヨシ:そう、靴屋さんちゃうで、のちの初代米大統領。ちなみに、このとき、ワシントン敗けて、捕虜になっとる。
クニー:おやまあ。
ヨシ:開戦からしばらくは仏が強かってんけど、植民地よりヨーロッパ本土での対プロイセン軍備にチカラをそそいだこともあって、1757年から英が反攻、1760年にモントリオールが攻略され、1763年のパリ講和条約で、仏はカナダの領土とミシシッピ川以東アパラチア山脈までのルイジアナを英に割譲、ミシシッピ川以西のルイジアナを、仏といっしょに戦ってフロリダとられたスペインに割譲することになってもうた。
クニー:たしか、ルイジアナLouisianって、ヴェルサイユ宮殿を建てたルイ14世 Louis XIV にちなんだ地名だよね。
ヨシ: そうそう。ニューオーリンズNew Orleans もNouvelle-Orléans、つまり「新オルレアン」いう名前やからね。

カナダの公用語
ヨシ:カナダは、ごぞんじのとおり仏英2言語が公用語の国やけど、州ごとの独立性がたかいカナダでは、公用語も州ごとに決まっとって、フランス語を公用語としてんのは、カナダの10州と3準州のなかで、ケベック州だけや。
クニー:1977年の「フランス語憲章」Charte de la langue française / Charter of the French Language で規定したんだね。
ヨシ:ちなみに、ケベックの話者数比は、仏78%、英8%、その他12%。
クニー:のこりの2%は?
ヨシ:バイリンガル、トライリンガルの人らやね。この人らをのけて、単純に、仏語だけ英語だけの話者数比やと、仏91%、英9%や。全カナダの仏語話者の9割ちかくがケベック州に住んではる。
クニー:なるほど。
ヨシ:あと、ニューブランズウィック州だけが仏英2言語を公用語で、ほかの8州は実質英語圏や。まあ、ユーコン準州は仏英、ヌナプト準州は、仏英にくわえて先住民のイヌクティトゥット語とイヌイナクトゥン語、北西準州はそれにくわえて7言語の計11言語が公用語やったりすんねんけど、とまれ、連邦政府レベルでは仏英2語で、話者数比は仏21%、英57%、その他20%。仏語だけ英語だけの話者数比やと、仏27%、英73%。1969年の「公用語法」Loi sur les langues officielles / Official Languages Act で、そこの「目的」のとこに、こう書かれとる:La présente loi a pour objet : a)dʼassurer le respect du français et de lʼanglais à titre de langues officielles du Canada, leur égalité de statut et lʼégalité de droits et privilèges quant à leur usage dans les institutions fédérales, 云々と。
クニー:つまり、仏英両語は、連邦政府レベルでの使用においては対等だと。
ヨシ:「公用語」ってのは、前に見たベルギーみたいに、その言語で行政サービスが受けられるいうのんが基本やからね。
クニー: まあ、英連邦Commonwealthの一員のカナダの国家元首は、いまでもイギリスの王さまだし、1982年の憲法まで、憲法もイギリス議会の所轄だったし、東部以外は英語圏なんで、フランス語のこと、ちゃんと書いておかないとって感じかな。
ヨシ: その1982年憲法の付属文書Bannexe B の第1部が「権利と自由に関するカナダ憲章」Charte canadienne des droits et libertés / Canadian Charter of Rights and Freedoms いうて、重要な法律なんやけど、その第16条でも「カナダの公用語」Langues officielles du Canada が規定されとる:Le français et l'anglais sont les langues officielles du Canada; ils ont un statut et des droits et privilèges égaux quant à leur usage dans les institutions du Parlement et du gouvernement du Canada. Le français et lʼanglais sont les langues officielles du Nouveau-Brunswick; ils ont un statut et des droits et privilèges égaux quant à leur usage dans les institutions de la Législature et du gouvernement du Nouveau-Brunswick. 以下略。はい、クニー。
クニー:ほらきた。「フランス語と英語はカナダの公用語であり、カナダの議会および政府の諸機関における使用にかんし、同等の地位ならびに同等の権利・特権を有する。フランス語と英語はニューブランズウィックの公用語であり、ニューブランズウィックの州議会および政府の諸機関における使用にかんし、同等の地位ならびに同等の権利・特権を有する」。
ヨシ:おなじ条文の英語版のさいしょのとこはこちら:English and French are the official languages of Canada and have equality of status and equal rights and privileges as to their use in all institutions of the Parliament and Government of Canada.
クニー:英語版だと、「英語とフランス語」って順番になってるんだね。
ヨシ:さっき見た「公用語法」も、英語版は「英仏」の順やで。両言語間に優劣をつけへんためかもね。

Francophones とAnglophones
クニー:ニューブランズウィック州だけ、わざわざおなじことが書かれてんのがふしぎな気がするけど、この州、フランス語だとヌーヴォー=ブランスウィックNouveau-Brunswick は、カナダで唯一、仏英2言語が公用語の州だよね。そして、さっき出てきた、アカディのひとたちの故郷でもある。それから、のびのある歌声で、ケベック州出身のセリーヌ・ディオンに比されたこともあるナターシャ・サン= ピエール Natasha St-Pier が、ニューブランズウィック出身だね。
ヨシ:この州は、仏語だけ英語だけの話者数比やと、仏33%、英67%。つぎに仏語話者の割合がおおいオンタリオ州で、仏対英は5対95やから、たしかにカナダのなかでは、ここだけが2言語地域というてエエかも。ここは、仏語話者と英語話者の軋轢が20世紀のおわりまでつづいたとこで、それも、どっちかの言語に偏ってへんせいやろなあ。
クニー:仏英両言語話者をなだめるように2言語公用語ってわけか。でも、このごろは、ほかの言語話者も増えてきてるから、2言語世界といえないよね。
ヨシ:それはまた、カナダ全体のあゆみにも反映されてるんやけど、今回もまた、誌面がつきてしまいましたァ。
クニー:そんなことではアカンディヤン。
ヨシ:ぎゃふん。

◇初出=『ふらんす』2017年11月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 福島祥行(ふくしま・よしゆき)

    大阪市立大学教授。仏言語学・相互行為論・言語学習。著書『キクタンフランス語会話』

  2. 國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)

    慶應義塾大学教授。仏語教育・仏文学。著書『基礎徹底マスター!フランス語ドリル』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年12月号

ふらんす 2024年12月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる