第34回 ラジオと歩む人生
波長の合う二人
ヨシ:最近なあ……。
クニー:最近なあ……。
ヨシ:行けてへんなあ~、フランス~。
クニー:ホンマやなあ。わしも今年は行けてへんわあ……。
ヨシ:クニーもそうなんか。って、なんで口調まで真似すんねん!
クニー:いやあ、なんか放談も3年もやっていると、だんだん、ヨシと以心伝心、瓜二つになってきて、言葉までいまやすっかり関西人。
ヨシ:うそいいな! でも確かに僕らはフランス語でいうところの、Nous sommes sur la même longueur dʼonde やね。直訳すると「同じ波動の長さ」ってことで、意味は「波長が合う、馬が合う」!
クニー: しかもお互い電波系! And everything I had to know / I heard it on my radio ラジオが全てを教えてくれた!
ヨシ:美声を聞かせてくれるのはええけど、「電波系」の使い方、間違うてるで。まあええか。ほな今回はラジオの話題でいってみまひょ!
ラジオとの付き合い
クニー:ヨシはいつ頃からラジオを聴き始めたの?
ヨシ:中学のときに、深夜放送を聴き始めたのが最初やね。ラジオ聴きながら勉強する「ナガラ族」やった。さいしょはABC(朝日放送ラジオ)聞いとったけど、ノイズをかいくぐりながら聞いたTBSの「パックイン・ミュージック」の大ファンになって、中高浪時代はパックとともにあった。ナッチャコパック、みどりぶたパック、あーパックよ永遠なれ!
クニー:ぼくは小学校の高学年からかな。ソニーのラジオを買ってもらい、「コーセー化粧品歌謡ベストテン」をよく聞きました。中学生になってからは、洋楽にはまり、FMの番組プログラムが2週間分載っている『FMファン』を買ってエアチェック! FM愛知「FMメイツ」のDJ柴田チコさんが好きになったり、NHK-FM の「サウンドストリート」を聞いてたけど、決定的な出会いは襟川クロさんの番組「サウンド・コネクション」にDJとして出ていたピーター・バラカンさん!
ヨシ:イギリス人で、流暢な日本語を駆使する元祖音楽DJやね。
クニー:以来約40年ずっとバラカンさんのファンで、数年前にも1年間だけやってた「アナログ特区」って番組に、「中学の頃から好きでした」ってお便り書いたら、なんと読んでくれたんだ! Youpi !
ヨシ:何、リクエストしたん?
クニー:「1980年ピーターさんはクラッシュの『サンディニスタ』を大推薦してたけど、今聴き直すとしたら、どの曲が一番好きですか?」って。
ヨシ:50過ぎても、クニーはパンク少年やな~。って、今月もフランスの話、しとらへんがな!
フランスのラジオで勉強する
クニー:フギョギョ! フランスのラジオといえば、まずはニュース情報番組France Info だね。
ヨシ:24時間放送で、同じ内容が繰り返されて流れることが多いから、聴いているうちに、だんだん耳が慣れてくる。せやからヒアリングにはもってこいやね。
クニー:今でも覚えていることがあって、留学してFrance Info を聴き始めたばかりの頃、ニースでrillette が原因で、食中毒があったというニュースを聴いたんだけど、rillette がわからなかった。それで辞書を引いて「肉をラードで煮てペーストにしたもの」だと初めて知ったんだ。
ヨシ:まず、教科書には出てけえへん、日本では馴染みのあれへん食べ物やから、それはわからんわなあ。
クニー:ラジオは外国語学習の強い味方だけど、最近はインターネットと連動してさらに便利! 例えばRFI(Radio France International)のJournal en français facile「簡単なフランス語ニュース」のホームページでは、音声が聞けて、さらにtranscription(音声を書き写したもの)も載っている。France Info には、vidéo のページがあって、テレビニュースのダイジェストが見られる。
フランスのおすすめラジオ番組
ヨシ: 加えてフランスのラジオ局の多くは、podcast で配信をしているから、iTunes とかに番組を登録さえしておけば、オン・タイムやなくても、自分の好きな時間、好きな場所で番組が聞ける。
クニー:本当にpodcast を使った番組配信は僕の人生を変えました。そもそもフランスはラジオ局も多く、番組数も豊富なので、もう憑かれたように登録したんだ。今でも40番組以上に登録してる!
ヨシ:そんなん、全部聞けへんがな!
クニー:ああ、人生があ、にぃいどあればあ、この人生が、にぃいどあれば~ orz.
ヨシ:いちいち歌わんかてエエがな。で、その中でクニーのお気に入りは?
クニー: やはり音楽番組! 一押しはFrance Inter のVery Good Trip。月曜から金曜までの1時間番組で、毎週特集を組んで、さまざまなポピュラー音楽を紹介してくれる。あまり有名じゃないミュージシャンの時もあるけれど、素晴らしいのは、animateur のMichka Assayas ミシュカ・アサイアスが、決してマニアックにならず、平明な言葉で、その音楽の魅力を紹介してくれるところ。
ヨシ: アサイアスって、映画監督のOlivier Assayas オリヴィエ・アサイアスの親戚?
クニー:弟だよ。兄は映画、弟は音楽とそれぞれの分野で活躍しているね。
ヨシ:音楽以外の番組のおすすめは?
クニー: RFI のVous mʼ en direz des nouvelles は音楽だけではなく、文学や演劇、映画など文化一般を扱う情報番組。
ヨシ:番組タイトルは、「きっと気に入りますよ」という熟語表現やね。
クニー:そう! 番組内容は、毎回ゲストが招かれて、animateur のJean-François Cadet ジャン・フランソワ・カデがテンポよく会話を進めていく。今フランスでどんな催し物があるのか、日本にいながらにしてわかるんだ。それにRFI はInternational というだけあって、フランス語圏からのゲストも多くて、発見があるよ。
ヨシ:フランスのラジオ局は、局によってカラーがはっきりしとるさかいな。France Culture は「高尚な」番組が多い。哲学の議論なんかも聞けるね。一方例えばEurope 1 のニュースは、国際ニュースだけやなくて、フランスのローカルな話題も流してくれます。自分の趣味にあわせて、ラジオ局を探すとエエね。
ラジオと声
クニー:ラジオが好きなのは何といっても、親しみやすいメディアだからかな。
ヨシ:確かに声を聴いていると、なんだか直接話しかけられとるような気になるし、リクエストもできたりして、距離が近く、双方向なやりとりが魅力やね。
クニー:そういえば、フランスに留学した当初、深夜番組をベッドの中で聴いていたんだけど、Allô Macha という番組が印象に残っているんだ。マーシャという女性が、電話をかけてきたリスナーといろんな会話をするんだ。深夜だからか、「新しい仕事が不安だ」とか「ある人から告白されたけれど、ずっと前の失恋からいまだに立ち直れなくて、前に進めない」という心の内面を打ち明ける相談が多かった。
ヨシ:フランスの人かて、やはり悩んだり、躊躇したりする。ステレオタイプとは違ごた一人一人の具体的なリアリティが、声を通して伝わってきたんやなあ。
クニー:そう。そしてマーシャは、ベラベラと話すこともなく、タバコを吸いながら、相槌を打っている。ぼくはそんな声を聞きながら、美輪明宏のような人を想像しつつ、眠りについていたのです。
ヨシ:目が遠いところを見とるで。親しみやすさいうたら、Les Enfants du Canalいう、ホームレス、フランス語でいうSDF(sans domicile fixe) への支援活動をしとるassociation(NPO のような団体)があんねんけど、クリスマス・シーズンにホームレスの人たちにダイナモ付きのラジオをプレゼントしてる。France Infoかて、前に« Solidarité : postes de radio pour lutter contre lʼ isolement des sans-abri»「連帯:ホームレスの人々の孤独を解消するためのラジオ」とタイトルをつけて活動を紹介しとったで。
クニー:ラジオから人の声を聞けることが、孤独感を和らげてくれるんだろうね。そんな魅力がある以上、ラジオは決して消えたりしないね。
ヨシ:大事な話忘れとった! クニーもぼくも、NHKラジオのフランス語講座で、美声を響かせとった~!
クニー:じゃあ今度ぜひ二人で番組やりましょー!
◇初出=『ふらんす』2019年1月号