水上の騎士道

セートのサン・ルイ祭りでは、運河が闘技場と化す。© Jorge Franganillo / CC BY 2.0
フランスの8月はヴァカンスの季節ということもあり、スポーツイベントの開催も少し落ち着く。ウォータースポーツがまさにシーズンで、大西洋岸ならサーフィンやヨットのイメージがあるが、南仏などの地方都市で多くのヴァカンス客を集めるのは「水上槍試合joutes nautiques」(以下、ジュット)だろう。その歴史は古く、古代エジプトを起源としてギリシア、ローマへ伝わった。おそらく当時は戦闘訓練であったと思うが、次第に見世物、競技として発展した。ジュットはドイツやベルギー、スイスなどでも行われているほか、フランスでは地域に根づいた伝統的な競技で、地方ルール、流派がある。
競技は2チームで行われる。8~10人の漕手を乗せたボートの船尾に張り出した高台に立つ選手が約3メートルの木製の槍と盾を持ち、ボートがすれ違う瞬間に相手選手を水中に突き落とせば勝ちとなる。これがラングドック方式で、最も一般的なスタイルである。ローヌ河周辺で行われるリヨン方式、ジヴォール方式はボートが右側ですれ違うか、左側ですれ違うかの違いがあり、また槍の長さは6メートルもある。パリ方式ではモーターで推進するボートが使われるなど、地方ごとに特色があり、これらのいくつかは2012年にフランス文化省の無形文化遺産目録に登録されている。
ジュットの試合が開催されるのは5月から9月初め頃まで、特に決勝戦が多い8月末が最も盛り上がる。有名なのは南仏のセートSèteで開催されるサン・ルイグランプリで、サン・ルイ祭り(8月19日~25日)の最中に町の中心を流れるロワイヤル運河で行われる。1743年に初めて開催されてから、今年で282回目を迎える。ジュットがスポーツ競技として国から正式に認定されたのは1971年だが、地域の住民たちが長く伝統を守ってきたことには驚かされる。また、セートから東へ約40キロ、カマルグ地方のエーグ゠モルトAigues-Mortesでは1270年に十字軍の兵士たちが競技を行ったという記録もあり、城壁の側を流れる運河で開催されるジュット大会(8月29日)も多くの観光客を集める。一方、パリ方式は、現在はパリ市内で試合が行われることはなく、パリから南東へ170キロ離れたヨンヌで行われている。
いずれも、スポーツイベントというよりは地域の夏祭りの一部として伝統に根ざしている。スポーツ競技としてはフランス水上槍試合・水難救助連盟が統括し、かつては男性しか競技に参加できなかったが、今では女性や子供が出場できる選手権も行われている。



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