仏サッカー、黄色いベストの影響
燃料税の増税に対するデモからマクロン政権の経済政策に対する不満へと引火した「黄色いベスト運動Mouvement des Gilets jaunes」。暴力的で無法な側面も無視はできないが、革命だとして支持する声も強い。デモが行われる土曜日は、メトロやバスなどの公共交通機関の運行にも大きな影響が出たほか、12月11日には商店の臨時休業や美術館などの閉館、そしてスポーツの試合の延期も見られた。試合の延期に伴い、カレンダーの修正、会場の手配の他、遠征する選手や観客への対応など、さまざまな運営上の問題が発生する。関係者のあいだでは、プロ・アマ問わず、デモが続くことへの懸念も広がっている。
サッカーの場合、12月はリーグ1、チャンピオンズリーグ、クープ・ドゥ・ラリーグを同時に抱える過密日程となっていたパリ・サン=ジェルマンにとっては、試合の延期は好都合であった。他方で、ナントFC は、試合を終えてバスで空港へ向かう途中、「黄色いベスト」集団によって道路を封鎖され、選手たちがバスから降ろされるという事態も起こっている。ナントFC と言えば、かつてジレGilet という名の選手が所属していた。それをジョークにして、黄色のナントのユニフォームを着たジレ選手(gilet は「ベスト」を意味する)の写真がツイッターで出回った。
オランピック・マルセイユのサポーターは熱狂的なことで知られている。チーム公式サポーターグループの一つSouth winners 87 は、12月2日にホームスタジアムで行われたランスReims 戦で、普段はメインスタンドをサポーターズ・カラーのオレンジ(反人種主義のシンボルカラー)一色に染めるところ、黄色いベストを着用して「winners は皆とともに」と書かれた横断幕を掲げた。試合は双方無得点の引き分けに終わったが、幸い暴徒化する事態に発展することはなかった。
再びツイッターでのジョークの話になるが、マルセイユにはサンソンSansonという選手がいる。先のジレと結びつけるとサンソン・ジレ、「ベストを着ていない」(sans son gilet)となる。これに同じくマルセイユで活躍する日本代表の酒井宏樹の名が加わり、「サンソン・ジレ・サカイ」で一つのフレーズになる。先月号の人種差別の話に続き、「日本人=黄色」とは考えすぎなのであるが、この場合、Sakaï の発音は « ça caille »(「寒い」)に近いことから、「ベストを着ていないので寒い」の意味である。酒井のナイス・アシスト(?)でこの言葉遊びはフランス人を大いに笑わせた。
◇初出=『ふらんす』2019年2月号