フランスとアルジェリア、スポーツにおける二重国籍
エジプトで開催されていたサッカーのアフリカネイションズカップの決勝戦が7月19日に行われ、アルジェリアがセネガルを破り、29年ぶりとなる2度目の優勝を成し遂げた。いずれの国もかつてフランスの支配を受け、現在もフランスと深い関係があるが、特にフランスではアルジェリア人の数が多く、フランス本国に居住する移民のうち、約80万人がアルジェリア出身者である。移民全体の13パーセントを占め、国別では最も多い。これに、アルジェリア人の親をもちフランスで出生した「2世」の人口を加えると、200万人近くになる。
母国の代表チームが勝ち進むにつれてフランス国内のアルジェリア人たちの熱気は高まり、勝利に沸いてシャンゼリゼ通りに集まった同胞たちの一部が暴徒化するという事態に発展した。アルジェリア国内では、今年2月から、大統領選挙を前にブーテフリカ元大統領の5度目の再選に反対する反政府デモが起こり、4月には退陣に追い込むことに成功したが、以後も政変が続いている。しかしシャンゼリゼ通りで生じた暴動は、反アルジェリア政府ではなく、フランスに対する暴言や国旗の損壊など、反フランスの様相を呈していた。
アルジェリアチームのうち14名の選手は、フランスとの二重国籍者である。多くのメディアは今回のアルジェリア人サポーターの暴徒化について、フランスに居住する二重国籍者と移民の帰属感情や同化プロセスの観点から説明している。「反フランス」を叫ぶアルジェリア人は決して多数派というわけではないが、単一国籍のフランス人にとってこの暴動はどのように映るのだろうか。右派政党「立ち上がれフランス」のニコラ・デュポン=エニャン党首は、「アルジェリアの方が好きで、フランスよりアルジェリアの方がよいなら、アルジェリアに帰ればいい」とテレビ番組の中で言っている。二重国籍に反対する「国民連合」は、アルジェリアの独立に反対する立場から立ち上げられた「国民戦線」を前身とするが、暴動が過熱すればするほど彼らには追い風になる。
暴動が起こった7月14日は革命記念日で、午前中にはシャンゼリゼ通りでマクロン大統領がフランス軍を率いるパレードが行われている。その数時間後、たくさんのアルジェリアの国旗が翻り、アルジェリア人の波が同場所を埋め尽くした。19日の決勝戦の後もフランス各地で深夜遅くまで祭りが続いた。大多数のアルジェリア人は、フランスが優勝した時のように母国の優勝を喜んだだけなのかもしれないが、アルジェリアとフランスの関係を改めて考えさせられる出来事となった。
◇初出=『ふらんす』2019年9月号