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「アクチュアリテ スポーツ」芦立一義

女子ハンドボールの価値

 フランスでハンドボールは、サッカー、ラグビーに続く人気の球技である。2017年の世界選手権では男女ともに世界チャンピオンになり、今年の世界選手権では男子が3位に終わった。2017年の男子大会は母国開催ということもあり、優勝時はサッカーやラグビーと同じくらいの盛り上がりを見せた。女子の2019年大会は11月30日~12月15日に日本で開催される。昨年末にヨーロッパ選手権を制し、勢いに乗って世界2連覇へ突き進みたいフランス女子チームであるが、国内では女子ハンドボールの「価値」に関わる問題が9月の新シーズン開幕直前まで続いていた。

 新シーズンが始まる時期は、放送カレンダーをめぐる話題が多い。サッカーにせよ、ラグビーにせよ、有料チャンネルで放送されることが多いため、どこのチャンネルと契約するかにも関わってくるからである。女子ハンドボールについては、昨年までBeIN スポーツが国内リーグの放送権を持っていたが、2019シーズンについては白紙のままであった。新シーズンが始まる直前になんとかSport En France で放送されることが決まったが、今年5月に出来たばかりの新しい放送局で、まだ認知度も低い。このSport En France は、フランス国内オリンピックスポーツ委員会と、関連する107のスポーツ連盟を基盤とする放送局で、オリンピックで注目度の低い種目や、女子スポーツ、若手選手の大会など、大手局では見ることのない試合を放送する。スポーツ中継の最大手BeIN は、女子ハンドボールを手放す代わりに男子ハンドボールの国内リーグおよび諸大会の4年分の放送権を手に入れたが、ここに女子ハンドボールに対する一つの評価が表れている。

 この件をめぐってフランス代表のアリソン・ピノーはフィガロ紙のインタビューで、自分たちのパフォーマンスがテレビで見られることに安堵すると同時に、BeIN が手放した放映権を他のどの放送局も手に入れようとしなかったことも忘れてはならないという。他方、男子はと言えば、代表チームはスター軍団であり、国内リーグはスポンサーにより「スターリーグ」と名付けられている。男子は世界選手権でもオリンピックでも常に優勝を狙い、実際に成績を残してきた。今回の世界選手権で、女子チームも優勝を狙うが、勝ち続けなければならない理由がある。女子の場合、負けると注目度が一気に下がるからであると、同じく代表のカミーユ・エイグロンは勝利へのプレッシャーを打ち明ける。

 スポーツ中継における女子スポーツの割合は20パーセントに満たないが、ハンドボール連盟の言うように「不平等」ということなのか、放送局の立場としては難しいところでもある。

◇初出=『ふらんす』2019年11月号

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著者略歴

  1. 芦立一義(あしだて・かずよし)

    パリ第12大学Master2(哲学)修了。仏哲学

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