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「アクチュアリテ スポーツ」芦立一義

サッカーW杯の格差

 6月に入ったばかりの頃、1週間後に開幕するサッカーのFIFA女子ワールドカップのフランスでの認知度が意外と低くて驚いた。フランスで開催されるとあってもう少し知られていると思っていたが、「ワールドカップ」の話題を振れば、昨年のロシア大会、あるいは9月に日本で開催されるラグビーのワールドカップの話だと勘違いされることもよくあった。確かに男子と比べると、ニュースや情報の量が明らかに少なく、宣伝力は弱かった。グループリーグに関して言えば、フランス対韓国の開幕戦だけは数か月前にチケットが完売していたが、その他の試合は開幕直前の最も安い席(9ユーロ)でも空席が残った。

 テレビ中継された開幕戦は男子大会の時と同じくらいの高視聴率で、約100万人がテレビ観戦したと報じられた。2015年の女子大会準決勝、フランス対ドイツの試合では視聴者数は約40万人であったから、注目度は少なからず高くなっている。特に昨年は男子が優勝しており、アベック優勝への期待もあるはずだ。韓国戦は4-0の大勝、続く第2戦では、昨年の最優秀選手賞「バロンドール」に選出されたヘーゲルベルク率いるノルウェーと対戦し、こちらも韓国戦ほどではなかったが高視聴率となった。

 初戦での高視聴率を受けて、テレビ中継を行なったTF1 は、ノルウェー戦での試合中のCM放映権料(30秒のスポットCM)を66,000ユーロから116,600ユーロに、約60パーセントの値上げを行なった。このCM放映権料は試合毎に異なり、注目度に応じて変動する。フランス代表が決勝戦に進んだ場合は125,000ユーロ、フランス代表が不在の場合は決勝戦でも16,000ユーロと見積もられている。ちなみにフランス代表が勝利した昨年の男子大会決勝戦でのCM放映権料は280,000ユーロだった。

 女性がスポーツ担当大臣を務めるフランスでは、女子スポーツの促進、またはスポーツにおける男女の平等に関して敏感である。FIFAとフランスサッカー連盟から支払われる選手たちへの報酬に男女間で格差があるのは、他所(よそ)も事情は同じであろう。2015年大会の報酬額より約2倍に増額されたとはいえ、それでも昨年の男子大会の場合と比べると、選手が受け取る金額には10倍近い開きがある。FIFAは女子大会の報酬額を男子以上の増額率で更新していく予定であるが、男子と同程度になるまでには20年かかる計算である(ル・モンド紙)。その点、男女平等教育先進国のノルウェーは2015年大会から男女の報酬額に差を設けていない。フランス、そして日本がノルウェーに追いつくのは何十年後だろうか。

◇初出=『ふらんす』2019年8月号

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著者略歴

  1. 芦立一義(あしだて・かずよし)

    パリ第12大学Master2(哲学)修了。仏哲学

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