W杯で優勝したのは誰か
国旗を背負って戦うスポーツは特に、普段それほど関心がない人々までも熱狂させるものだ。それは万国共通で、日本でもフランスでも、試合を観て熱くなるのにルールや戦術はそれほど重要ではない。勝てば熱狂は続くし、負ければ熱狂から覚めるというわけで、フランスは20年ぶりにワールドカップの「猛暑」となった。
「国旗を背負う」という表現自体がナショナリズムを連想させるが、フランスの場合、同時に人種主義の問題を内包している。フランスにアフリカ系移民が多いことには驚くことはないが、サッカーの代表チームでは特にその割合が高く、そのため、負ければ「黒人のせい」、勝てば「黒人のおかげ」とされることが多い。白人選手の割合が低いゆえ「これはフランス代表ではない、アフリカ代表だ」というような発言が見受けられるようになったのは1990年代くらいからであるが、前回フランスがジダンを中心とするチームでワールドカップ初優勝を成し遂げた1998年にもこうしたレイシズム発言は問題になった。今回もフランスの優勝を受けて、「勝ったのはアフリカだ」(ベネズエラ大統領)、「我々はフランス共和国とアフリカ大陸を相手にした」(クロアチア代表監督)といった発言のほか、SNS上でのコメントやテレビ番組での冗談など、レイシズム発言は後を絶たない。
7月17日、ヨハネスブルクで行われたネルソン・マンデラ生誕100周年記念式典でオバマ元大統領は、フランス代表の選手たちは「ガリア人には似ていない。だが彼らはフランス人、フランス人なのです」と述べ、フランスの多様性diversité を強調した。これは移民に反対するトランプ大統領に対する批判を念頭に置いたものであるが、同時に移民排斥を掲げるフランスの極左政党、国民戦線党首マリーヌ・ルペンや、「移民もフランス人になった時から祖先はガリア人である」という旨の発言で物議を醸したサルコジ元大統領への批判ともなる。
フランス代表選手は帰国後にシャン・ゼリゼ通り(1,7km)で凱旋パレードを行ったが、その時に選手たちが乗っていたバスのスピードが速すぎるということが話題になった。バスを誘導・警備する警官は駆け足で、パレードの時間はわずか14分だった。セキュリティ上の理由からとはいえ、98年に優勝した時は4時間であったことから、あまりにも時間が短すぎるということで不満の声があがった。実際、今回のパレードで選手に向かって棒状の物体が投げつけられた映像も公開されている。だがこちらはレイシズムの問題ではなく、「熱中症」の症状みたいなものだろう。
◇初出=『ふらんす』2018年9月号