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「アクチュアリテ スポーツ」芦立一義

フランスサッカー界の人種主義問題

 2015年の開設以来、数々の有名クラブチーム、スター選手の契約書などの情報を公開して注目を集めているウェブサイト「フットボール・リークス」が、パリ・サン=ジェルマンFC(Paris Saint-Germain FC 以下PSG)に白羽の矢を立てた。PSG は、ネイマールやエムバぺを擁し、フランストップリーグのリーグ1 で2 位以下を大きくポイント差で引き離して首位を独走中である(2018年11月現在)。その背景には、2011年に単独株主となったカタールのナセル・アル=ケライフィが巨額の移籍金でチームを強化してきたことがあるが、今回フットボール・リークスが暴露したのは脱税や契約違反の件ではない。

 フットボール・リークスの告発によれば、2013年から2018年春にかけて、PSG のリクルート部署が若手選手の発掘に際し、選手データを記載する内部調書のなかに人種に関する項目を設定していたとのことで、入手した同調書の一部も公開されている。ニュースサイトMediapart で11月8日に公開されている同調書には、「出身」欄があり、「フランス」「マグレブ」「アンティル」「ブラックアフリカ」の4 つから選択するようになっている。またレキップ紙の専属ジャーナリスト、グレゴワール・フルロがツイッターに掲載している別の調書には“C”(couleur=肌の色)という欄があり、BC(blanche=白人)、BK(black=黒人)、AS(asiatique=アジア人)などの分類記号が見られる。フランスの法律は、こうした出身などの情報データ化を禁じており、違反した場合は懲役5年と30万ユーロの罰金が科せられる。

 PSG 側はすぐに事情調査の報告を発表し、フットボール・リークスの告発内容を認めた。ただし、統括部には調書の項目に関する事実は通達されておらず、つまり上からの指示や要請なしに行われていたことだとしている。Mediapart が公開した調書は、2013年に13歳以下カテゴリーで極めて高い評価を受けたヤン・ゴボYann Gboho に関するものだが、当時彼をPSG に推薦したセルジュ・フルニエは、PSG に黒人選手を増やさない方針があったことに言及している。

 11月19日、PSG が検察の調査を受けることが明らかになった。2011年にもMediapart は、フランスサッカー協会が公式会議の際にジュニア代表選手の選考に「割り当て数quotas」を導入することを議論した記録を公表し、当時のフランス代表監督であったロラン・ブランが賛成意見を述べたことでフランスサッカー界の人種主義が問題化したことがあるが、発言のみであれば法には抵触しないため、この時は起訴とはならなかった。

◇初出=『ふらんす』2019年1月号

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著者略歴

  1. 芦立一義(あしだて・かずよし)

    パリ第12大学Master2(哲学)修了。仏哲学

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