自転車競技、バスケットボールが育てた豪脚
8月10日から17日にかけて、2024年のパリ五輪でも使用されるサン=カンタン=アン=イヴリーヌ自転車競技場で自転車トラック競技のフランス選手権が行われ、各競技種目のフランス王者が決定した。スプリントやケイリンなど6種目が来年の東京五輪の正式競技であり、今年のフランス選手権での結果は五輪代表選手選考に大きく関わる。
女子500メートル、ケイリン、スプリントの3冠を達成したマチルド・グロは、2015年以来ジュニア・カテゴリーも含めてフランス選手権で13勝している。昨年はヨーロッパ選手権のケイリンで初優勝を飾り、今年は世界選手権のスプリントで銅メダルを獲得した。今年20歳のグロには今後の上積みも十分に期待でき、来年の東京行きは内定であろう。トラック競技は他の競技と比べるとそれほどメジャーではないが、ケイリン、あるいは競輪に詳しい人のあいだでは、日本でもすでに彼女は有名である。昨年から短期登録選手制度を利用して日本の競輪に参戦しており、競輪イベントやテレビ番組にも出演した。五輪の開催が近づくにつれてメディアで取り上げられる機会もますます増えていくだろう。
2015年に初めてフランス選手権(500メートル)で優勝したのだが、驚くべきは、自転車競技を始めたのがそのわずか1年前だったということである。バスケットボールを10年以上続け、エクス=アン=プロヴァンスのユース育成センターでより高いレベルを目指していた時、たまたまセンターにあったサイクルコンピュータ内蔵自転車で遊んでいたところ、その驚くべきデータがBMX部門の目に留まり、さらにフランス自転車連盟へと送られた。決断は容易ではなかったが、次年度からグロはバスケットボールではなくトラック競技の育成センターでトレーニングを開始する。そして1年後、フランス選手権のジュニア・カテゴリーで優勝、さらに翌年にはヨーロッパ選手権の同カテゴリーの2種目で優勝、といった具合にすぐに頭角を現した。時に16歳、すでに将来を有望視される。オリンピックでのメダル獲得を目指して競輪の本場で期間限定の武者修行すべく、18歳で単身初来日した。
男子ケイリンでは、同じく20歳のラヤン・エラルが優勝した。エラルは6月のヨーロッパ競技大会で銀、7月のヨーロッパ選手権で銅を獲得している。エラル、グロともにUSクレテイユに所属しているが、同チームはかつてツール・ド・フランスを制したローラン・フィニョンやグレッグ・レモン、五輪メダリストのグレゴリー・ボジェ、ミカエル・ダルメダらを輩出した名門である。
◇初出=『ふらんす』2019年10月号