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「アクチュアリテ スポーツ」芦立一義

サッカー選手 ベン・アルファの反旗

 アテム・ベン・アルファHatem Ben Arfa、32歳の現役サッカー選手で、フランス代表に選出された経験をもち、2016~2018年の2シーズンは世界有数のクラブチームであるパリ・サンジェルマンFC(以下、PSG)に所属していた。「現役」と言ったが、今季はまだ所属チームが見つかっておらず、現在も無所属のままである。ヨーロッパのサッカーに詳しい人には改めて彼のことを紹介するまでもないくらい有名な選手で、昨年はスタッド・レンヌの主力として、クープ・ドゥ・フランス(フランス杯)優勝にも大いに貢献した。

 ブーレーズ・マチュイディやキリアン・エンバッペと同じくクレールフォンテーヌ国立サッカー養成所出身で、若い頃からその才能は注目されてきたが、監督との対立が目立ち、構想外として活躍の場面を失うことも多かった。2015-16シーズンにOGC ニースでの活躍が評価され、2016年にPSG に移籍するが、ベン・アルファを推していたローラン・ブラン監督が新シーズン開幕前に解任、新監督のウナイ・エメリから早々に構想外扱いされ、エンバッペやネイマールが加入した2017-2018シーズンには完全に出場機会を失う。事実上、PSG から締め出された形であったが、今年の初めに、これについてベン・アルファはPSG に損害賠償を求めて裁判を起こしていた。

 損害賠償の内容としては、まず変動報酬に関するものである。規定試合数に出場するという条件が、ベン・アルファとしては「妨げられた」という訴えである。次に、「規範報酬」prime d’éthique の未払いについてであるが、PSG の規範報酬とは、メディアでチームを悪く言わないことと、時間通りに練習に参加すること、それを遵守することで受け取れるものであった。ベン・アルファは2017年にドーハでの冬季スタージュに参加しなかったが、それにより10万ユーロの罰金が科せられていた。しかしこの時は、胃腸炎の診断書を提出しており、正当な理由による欠席であったと主張している。最後に、モラハラがあったとして、これについては名目的損害として1ユーロ、総額で約700万ユーロの損害賠償を請求している。4月に労働裁判所で第一審が行われたが解決に至らず、最終判決は12月16日に出されることになっている。

 サッカー選手の契約内容を暴露することで有名な「フットボール・リークス」によれば、ネイマールが「サポーターに挨拶をする」という内容の規範報酬は37万5000ユーロだそうである。言葉を慎み、時間を守り、挨拶をする、サッカー選手には大切なことなのだ。

◇初出=『ふらんす』2019年12月号

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著者略歴

  1. 芦立一義(あしだて・かずよし)

    パリ第12大学Master2(哲学)修了。仏哲学

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