剣は心なり

どの大会でも選手同士は顔見知り
« Le sabre le est coeur »で始まる剣道訓は、勝海舟の師である剣豪、島田虎之助の言葉である。パリの体育館で稽古に励む剣道クラブBUDO XIの子どもたちは、稽古の際には必ず剣心一体を説く虎之助の言葉を、まず日本語で、それからフランス語で音唱している。稽古の風景は私たち日本人には珍しいものではないが、フランス人には奇異に見えることも多いようだ。そして剣道用語の「気剣体の一致」や「残心」、他のスポーツでも使われる「気合い」というのはなかなか伝わりにくい。勝敗の基準となる「一本」も柔道より複雑である。反対に、そうした精神的な側面に惹かれて剣道を始めるという人もいる。
剣道はフランスではまだまだマイナースポーツである。ライセンス保有者数でいえば、柔道の約50万人、合気道の約6万人に対し、剣道は約6千人に過ぎず、剣道を知らないという人も少なくない。パリ市内には剣道クラブがいくつかあるが、郊外や地方都市では近場でクラブを見つけるのは難しい。それでもヨーロッパではフランスは最強国で、2024年の世界選手権では圧倒的王者の日本に敗れたものの3位という成績を残した。
世界では日本という高い壁があるものの、ヨーロッパ選手権ではフランスは優勝の常連国である。今年はモンテネグロで開催されるが(6月19日~21日)、個人、団体、ジュニア部門も含め、フランスは優勝候補筆頭といっていい。その前に国内では、フランス最強剣士を決めるフランス選手権が行われる(3月28日~29日、ジュニア5月23日~25日)。フランス選手権には段位や国籍などの出場規定があるが、出場者数がそれほど多くないためか地方予選は行われない。剣道連盟主催の地域大会や剣道クラブ主催の大会の数も少なく、試合に出場する機会が限られているのが現状である。そのため、より多くの試合経験を積みたいkendokaは、ベルギーやスイスなど隣国の大会にも積極的に出場している。
フランス代表チームの監督やコーチは日本人が務め、いくつかの剣道クラブでは日本人が剣道を指導している。剣道の普及、日本的な礼や規律、島田虎之助の言葉でいう「心」の指導の担い手として彼らの役割は大きい。勝敗や技術よりも自己の修練に重きを置くところが剣道が他のスポーツと違うところであり、受容の難しさの理由の一つでもあるが、フランスをはじめヨーロッパで剣道が受容されるようになれば、オリンピックの正式種目になる日も来るかもしれない。



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