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「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

パリに残る歴代大統領の足跡


フランスを代表する建築家ジャン・ヌーヴェルが手がけたケ・ブランリー美術館

 オルセー美術館とオランジュリー美術館を運営する国立公益法人の名前に、ジスカール゠デスタン大統領(任期1974〜1981年)の名前が2021年に加えられたのをご存知ですか?オルセー美術館が開館したのはミッテラン大統領在任中の1986年ですが、かつて鉄道駅だった建物を19世紀美術の美術館として再利用すると決めたのはその前の大統領ジスカール゠デスタンでした。自身も19世紀芸術や文学に親しみ、在任中には他にもピカソ美術館やアラブ世界研究所など後世に残る重要な計画に関わったこの大統領ですが、オルセー&オランジュリーの国立公益法人にその名が付けられるまで、彼の名前を冠した文化施設が1つもなかったのは、ある意味驚くべきことでした。
 というのも、パリには歴代大統領が設立に何らかの形で関わり、その名が付けられた立派な施設がそこかしこにあるからです。ド・ゴール大統領といえばやはり空港。開港は1974年ですが、建設が決定したのは在任中の1964年のことでした。その次のポンピドゥー大統領といえばもちろんポンピドゥー・センター。近代芸術の愛好家だった大統領自身の構想に基づいて作られました。その次のミッテラン大統領は「グラン・プロジェ」という大々的な都市計画を打ち出しただけあって、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドやオペラ・バスティーユ、新凱旋門など大規模な建築プロジェクトの生みの親となりました。その最後を飾ったのが、パリ13区のセーヌ川沿いに建てられたフランス国立図書館(別称:フランソワ・ミッテラン図書館)です。さらにその次のシラク大統領は、自身も造詣が深かったアジア・アフリカ・オセアニアの民族芸術を扱うケ・ブランリー美術館(大統領の没後にケ・ブランリー・ジャック・シラク美術館と改名)を2006年にオープンさせました。
 その後のサルコジ大統領とオランド大統領は、大きな文化プロジェクトを実現せぬまま任期を終えました。マクロン現大統領念願のプロジェクトは2023年、パリの北東80kmにあるヴィレール・コトレ城にオープンした「国際フランス語博物館」です。
 サルコジ大統領以降、かつてほどのスケールや影響力のプロジェクトがなくなってきたのは、任期が7年から5年に短縮されて長期的な計画が立てにくくなったうえ、国家財政も厳しく、壮大なビジョンを持つ余裕がなくなってきたということかもしれません。今後は大統領の名を冠した新たな施設が生まれる機会も減っていきそうです。

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著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

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