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「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

誘惑の多いフランスの受験シーズン

 フランスの6月といえば、爽やかに晴れる日が多く、夜9時を過ぎても空が明るい、大人も子どももなんだか心がウキウキする季節。暖かな日差しを浴びながらカフェのテラスでのんびり過ごす人がますます増え、街の雰囲気も華やぎます。その一方で、9月から新学年が始まるフランスでは、6月は学校の年度末。学生たちの大事な試験が行われる受験シーズンでもあります。

 フランスの学校制度では、グランゼコールなど一部の例外を除いて、入学試験による選抜は一般的ではありませんが、その代わり、中学と高校の最終学年に受ける全国共通の国家試験が存在します。


6月は湿度が低く、日差しも気持ちいい日が多い

 毎年6月半ばに実施される「バカロレアBaccalauréat」は1808年にナポレオンが導入した歴史ある試験で、高校卒業のレベルを証明するもの。略して「バックBac」と呼びます。3種類あり、大学進学を目指すなら「一般バカロレア」、就職するなら「技術バカロレア」または「職業バカロレア」を受験します。受験者の大半は高校の最終学年の生徒たちですが、年齢に関係なく誰でも受験する権利があり、これまでの最年少は11歳、最年長は91歳。いかにもフランスらしいのが、試験科目に「哲学」があることです。たとえば「時間から逃れることは可能か?」というような問題に対して4時間かけて解答します。高校3年生がどんなふうに答えるのだろう?と想像すると興味深く、毎年「どんな問題が出たかな?」と注目しています。

 バカロレアと比べて日本ではあまり知られていないのが6月末に行われる「ブルヴェBrevet」と呼ばれる中学卒業試験。これに合格しなければ正式な中学卒業資格が得られない、こちらも大事な試験です。

 6月はスポーツイベントの多い月でもあります。テニスのローラン・ギャロス(全仏オープン)の準々決勝以降の試合は6月上旬に行われ、毎年ではありませんが、サッカーのW杯と欧州選手権も6月中旬に開幕です。2018年のロシアW杯の際には、フィガロ紙がホームページで「バカロレアの試験で見られない試合一覧」まで紹介していました。さまざまな誘惑を振り切って勉強に励んだサッカーファンの学生たちにとって、すべてが終わった後の7月15日にフランス代表の優勝を見届けられたときの喜びはさぞ格別だったことでしょう。

 最後に、今年は新型コロナウイルスの影響で、上で紹介したどのイベントも残念ながら変更や延期になりました。 

◇初出=『ふらんす』2020年6月号

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著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

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