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「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

五輪に向けてお色直し中のエッフェル塔

 1889年3月31日、エッフェル塔の落成式が行われました。日本では明治22年、黒田清隆が2代目の総理大臣で、大日本帝国憲法が公布された年……と言うとずいぶん昔のことだという実感が湧きますが、その頃に建てられた高さ312m(現在は324m)のタワーが現存し、しかも世界中から毎年700万もの人が訪れる大人気のスポットであり続けていることに改めて驚きます。エッフェル塔は建設当時から「La Dame de fer(鉄の貴婦人)」という愛称で親しまれています。「tour」が女性名詞だからなのはもちろん、塔を支える4つの支柱のことを「足」と呼び、その周りにレースのような美しい装飾が施されていることから、自然と女性に喩えられたようです。

 当時の建築技術では異例の2年2ヶ月と5日というスピードで完成したこの塔が今も現役でいられるのは、錬鉄製で、かつ、定期的なメンテナンスが行われているからです。最も重要なのは、錆や大気汚染から錬鉄を守るための塗装で、7年おきに60トンものペンキを使って塗り直されています。この130年ほどの間に19回塗り替えが行われ、現在20回目の作業が進行中です。塗装が必要な総面積は25万㎡。まず最大3ミリの厚さがあるという前回のペンキを剥がす作業が2019年から始まり、2021年2月からようやく塗装がスタート。今年の終わりには完了する予定です。高所での作業に慣れた30人ほどの塗装職人たちが、昔ながらに手でペンキを塗り進めていきます。転落防止用のネットや命綱のケーブルがあるとはいえ非常に危険な作業ですが、エッフェル塔を未来に繋ぐとても大切なミッションです。

 塗り直すということは色を変えられるということでもあり、実際、完成当時の赤茶色から、濃い黄土色やオレンジっぽい黄色など、これまでさまざまな色に塗り替えられてきました。1968年以降はパリの街に溶け込む「エッフェル塔ブラウン」と呼ばれる独特な茶色がずっと使われてきましたが、今回はギュスターヴ・エッフェル自身が好み、1907年から50年間ほど使われていた「黄茶色」が再び選ばれました。明るめの色合いで、陽の光に照らされると金メダルのようにゴールドに輝くエッフェル塔が見られそうです。2024年パリ・オリンピックでは、お色直しを終えたエッフェル塔をバックに、開会式のフィナーレやさまざまな競技が繰り広げられる予定です。


エッフェル塔は20回目のペンキ塗り直し中

◇初出=『ふらんす』2022年3月号

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著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

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