意外と多いフランスの私有の歴史的モニュメント
年間約30万人が訪れるヴォー・ル・ヴィコント城
初夏の晴れた日にヴォー・ル・ヴィコント城を訪れました。ルイ14世の有能な大蔵卿として権勢を誇り、莫大な富を得たニコラ・フーケが、その絶頂期に建てさせた17世紀のお城で、パリの南東およそ55キロの場所にあります。建築家のル・ヴォー、画家で装飾家のル・ブラン、造園家のル・ノートルという3人の名匠が手がけたこのお城のあまりの美しさと豪華さが、すでにフーケの行き過ぎた野心を不快に思っていたルイ14世の嫉妬と怒りを買い、フーケは失脚し投獄されました。ルイ14世はその後、同じ3人の天才に、ヴォー・ル・ヴィコント城をもしのぐヴェルサイユ宮殿を造らせます。
このお城の入口に、「フランスで最大の私有歴史的記念物」と書かれていたのを見かけ、庭園も含めると500ヘクタールにも及ぶこの大きなお城が私有であることに驚きました。フーケが没落したあと、何人かの公爵の所有となったのち、19世紀半ばには荒れ果てた状態に。これを救ったのが、実業家のアルフレッド・ソミエで、彼が行った大規模な修復によって建設当時の美しさが蘇りました。ソミエのひ孫であるパトリス・ドゥ・ヴォギュエが1967年にこの城を受け継ぎ、翌年には一般公開を開始。現在はその息子3人が運営を続けています。
フランスの「歴史的記念物(Monument historique)」は、建築物や家具など、歴史的・芸術的・科学的な価値のあるさまざまな文化的遺産を保護するために19世紀に生まれた格付けです。フランス文化省によれば、2019年現在、全国で44421件が指定されており、そのうち4割近くが私有です。有名な私有の歴史的記念物には、他にロワール地方のシュヴェルニー城やシュノンソー城、ジヴェルニーのモネの家と庭などがあります。これらのモニュメントの修復や維持管理を援助するために国から補助金が支給されるほか、一般公開による収入の免税など税制も優遇されています。公共・私有にかかわらず、フランスでは文化遺産の保護は大切な使命と考えられています。
◇初出=『ふらんす』2023年8月号