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「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

量より質へと変化するフランス人のワイン選び


ギャラリー・ラファイエットの高級ワイン売場

 友人の家で昔のアルバムを見せてもらったら、ベレー帽をかぶり黒いジャケットを着てパイプをくわえた、いかにも古き良きフランスのおじいさんといった風貌の人がいました。聞くと、それは1910年代に生まれ、ボルドー近くの小さな村に住んでいた友人の祖父で、朝から田舎風パンにリエット(豚のペースト)をのせたものをつまみながら赤ワインを飲むのが日課。1回の量は決して多くはないものの、昼食や夕食にも赤ワインは欠かさなかったそうで、友人曰く、この時代の家庭の食卓には常にワインがあったとか。土地柄、生産者から直接買った格安な赤ワインの大きな瓶が常にストックされていたのを、友人もよく覚えているそうです。

 時は流れ、フランス人のワイン消費量は年々減りつつあります。1960年、国民1人あたりの年間ワイン消費量は120リットルでしたが、2020年は40リットルと3分の1になりました。友人の祖父のように日常的に飲むものから、ホームパーティーやレストランでなど、より特別な機会に限って飲むものへと、ワインの飲み方が変化したことが最も大きな原因のようです。40リットルでも一般的なボトル53本分で、日本人の感覚では決して少なくはないので、1960年のワイン消費量はなおのこと驚異的。水代わりにワイン、と言ってもあながち大げさではないくらいだったのですね。ちなみに日本は1人あたり3リットル。

 気候変動の影響で霜や暴風雨、水不足の頻度が高くなり、ブドウそしてワイン自体の生産量が減る年が増えたのも、フランスのワイン業界の悩みの種です。また、フランス人が飲むアルコールのバリエーションが昔に比べて増えているのも、ワイン消費量に影響しているかもしれません。たとえばここ数年は日本酒やウィスキーなど、日本産のアルコール飲料への関心もぐんぐん高まり、ずいぶん手に入りやすくなりました。

 その一方、ここ10年間で、フランス人がワインに使う金額が増えてきているというのはよりポジティブなニュース。安いワインをたくさん飲んでいた時代から、多少価格が高くても、美味しいワインを適量飲みたいという人が増えてきたのだとしたら、それはワインの将来にとってまったく悪いことではなさそうです。

◇初出=『ふらんす』2023年3月号

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著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

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