大切な文化遺産を未来へと繋ぐために
毎年9月第3週の週末2日間で開催されるのがJournées Européennes du Patrimoine「ヨーロッパ文化遺産の日」です。1984年、当時の文化大臣ジャック・ラングが、全国に点在する歴史的建造物や文化財の価値を国民に再発見してもらうことを提唱したのをきっかけに始まりました。ちなみに同じく現在まで続くカルチャーイベントで、毎年夏至に開催される「音楽の祭典」を始めたのもこのジャック・ラングです。最初は「歴史的モニュメント一般公開の日」、次に「文化遺産の日」と呼ばれましたが、1991年からは欧州議会が正式にサポートし、名前にも「ヨーロッパの」という単語が追加されて、フランスだけに留まらずヨーロッパ各地で開催が始まりました。現在では50ヶ国が参加しています。
教会、劇場、お城、天文台、銀行、病院、学校、裁判所、県庁、市役所、個人所有の邸宅など、フランスだけでも1万7千ものスポットが公開され、毎年1200万人を動員する一大イベント。歴史的モニュメントのみならず、ルーヴルやオルセーなどの美術館・博物館を始め数多くの文化施設が参加し、しかも通常は有料の施設もこの期間中は無料または割引になるので、文化全般を気軽に楽しめる2日間です。
普段なら一般非公開の施設もこの週末だけは見学が可能になります。パリではリュクサンブール宮(下院議事堂)やブルボン宮(国民議会議事堂)、そして大統領の住まい兼オフィスであるエリゼ宮がやはり人気。サルコジ大統領の時代にエリゼ宮見学をしたことがありますが、信じられないほどの大行列でなんと7時間も並びました。それでも、大統領の執務室や閣議室、来賓と接見する部屋、晩餐会の間など、絢爛豪華なその内部と美しい庭園を一度はこの目で見たいという人が多いのもよくわかります。
とはいえ「ヨーロッパ文化遺産の日」の主役はエリゼ宮のような有名な場所だけではありません。知る人ぞ知る文化財の歴史や価値を再確認して、未来に受け継いでいくことこそが最大の目的なのです。
2020年はコロナ禍の影響を少なからず受けながらも無事に開催されました。38回目を数える今年も9月18日・19日に開催される予定です。
絢爛豪華な大統領執務室
◇初出=『ふらんす』2021年9月号