白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

パリの公園の美しさを陰で支える仕事

 仕事柄、いつもパリの街を歩いては、そのときどきの風景を写真に撮りためています。たとえ同じ場所でも、時間や季節、タイミングによって雰囲気が変わるので飽きません。

 先日、リュクサンブール公園の写真を見返していたら、同じ8月末に撮影したのに、昨年と今年とでは庭の草花の雰囲気が違うことに気づきました。昨年は赤やピンク、オレンジや紫など色とりどりのお花が華やかに咲き乱れていました。ちょうどその少し前にようやくカフェやレストラン、美術館や映画館などの営業が再開され、コロナ禍が始まってから初めて少し息抜きできた夏の喜びを象徴するようでした。一方、今年のほうは、お花がぐんと減って草がメイン。とても美しく植え込まれてはいますが、昨年に比べるとかなりおとなしい印象でした。今年の夏の歴史的な水不足と関係があったのかもしれません。昨年と今年の写真を見比べたことで、公園を美しく維持する庭師さんの仕事に興味が湧いてきました。


今年8月のリュクサンブール公園

 フランス一の大都会パリですが、パリ市が比較的早くから生物多様性の保全に取り組んできた成果か、実は2000種を超える野生の動植物が確認されています。これらの動植物が棲むのは主に、530もの公園、ヴァンセンヌの森、ブローニュの森、街路樹や花壇、そしてセーヌ川や運河です。

 合計2300haにも及ぶというパリの公園や森の世話をするために、パリ市が実施する採用試験に合格した1200人以上の庭師が働いています。世界有数の観光都市パリの公園が、いつも美しく整えられているのは当たり前のような気がしていましたが、彼らが四季に応じて草花を植え替えたり、芝刈りしたりしてくれているおかげなのだなと改めて実感します。

 パリの公園はそれぞれに特徴的なのですが、4区のユダヤ人街ロジエ通りとフラン・ブルジョワ通りに挟まれたジョゼフ・ミニュレ公園はぜひ一度訪れてほしい場所。入口がわかりづらいせいもあって、マレ地区のど真ん中にありながら驚くほど静かで、知る人ぞ知る憩いの場です。

 ちなみに、パリ市内には7つだけ、パリ市が管理していない公園があります。例えばリュクサンブール公園はフランスの元老院が管理していて、この公園のためだけに雇われた80人の庭師が、25 haの敷地内に散らばった多種多様な植物の手入れを行っています。また、チュイルリー公園もパリ市ではなくルーヴル美術館が管理しているそうですよ。

◇初出=『ふらんす』2022年11月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年11月号

ふらんす 2024年11月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる