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「アクチュアリテ 社会」桜井道子(トリコロル・パリ)

パリの街に続々と出現する巨大広告


オペラ・ガルニエの正面は2024年末まで完全に広告シートで覆われる予定

 コロナウイルスが原因のさまざまな制約がようやくなくなり、今年、初めてパリを訪れた、または数年ぶりに訪れたという方もいることでしょう。でもいざ来てみたら、パリはなんだか街中が工事中のようだな、という感想を持たれたかもしれません。2019年の大火災後、2024年末の復活を目指して修復が進んでいるノートル・ダム大聖堂はもちろん、オペラ・ガルニエ、エッフェル塔、ルーヴル美術館やコンコルド広場など、パリの主要なスポットで工事が行われているからです。来年夏に迫ったパリ五輪の準備や、オペラ座のように傷んだファサードの修復など、その理由はさまざまです。

 工事中のモニュメントは、足場の骨組みを隠すため、大きなシートで覆われています。ファサードの写真が全面に印刷されていて、うまくカモフラージュされているケースもありますが、このところよく見かけるのは巨大な広告です。世界中から旅行者が集まるパリの美しい街並みは確かに、この上ないロケーションであり、名だたる高級ブランドの広告が有名なモニュメントを覆っています。昔は歴史的な建物のファサードを広告で隠すなんて不可能だったはず、と調べてみたところ、文化遺産法により、修復工事で建物の外に足場を設置せざるを得ない場合のみ、歴史的記念物のファサードを商業広告のシートで覆うことが2007年から可能になったことがわかりました。地域圏の許可が必要で、広告がシート全体の面積の50%を超えないこと、広告収入のすべてを工事費に使うことが条件です。たとえば、長い工事期間を経て2021年から一般公開が始まったオテル・ドゥ・ラ・マリーヌでは、工事費の15%がコンコルド広場に面するファサードに設置した広告でまかなわれました。

 公的な助成金だけでは十分とはいえない修復費用をこのような広告で補うことは良いアイデアではありますが、これらの巨大な商業広告がパリの景観を損ねていると憂う声も聞こえてきます。足場の骨組みがそのまま見えるほうがいいのか、広告で隠されているほうがいいのか……歴史的建造物だらけのパリでは、このジレンマは永遠に続くのかもしれません。

◇初出=『ふらんす』2023年10月号

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著者略歴

  1. 桜井道子(さくらい・みちこ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』。

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