変わらないパリ、変わり続けるパリ
オスマン様式の建物やメトロの入口、セーヌ川などパリを特徴づけるものが常にそこにあるせいか、パリを久しぶりに訪れて、その街並が以前のままであることに驚く人は多いでしょう。でも実際のパリは、ただ過去の遺物が大切に残されているだけではなく、想像以上に絶え間なく変化を続けています。
エッフェル塔やポンピドゥーセンター、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドなどが、建設当時は斬新すぎると批判を浴びたのは有名な話ですが、モンマルトルの丘にそびえるサクレ・クール寺院の完成が1923年で、パリの中では新参者なのは意外です。そのどれもが今ではパリの風景に不可欠なモニュメントです。
パリのど真ん中にあるショッピングセンター「フォーラム・デ・アール」は、12世紀からそこにあった中央卸売市場の移転に伴い1979年に誕生しました。「パリの胃袋」と称された歴史ある市場の代わりに近代的な商業施設が建つなんて、当時は衝撃的だったのではないでしょうか。そのすぐ近くには、かつて穀物の商品取引所だった16世紀の美しい建物「ブルス・ドゥ・コメルス」があります。安藤忠雄が内部の改装を手がけ、実業家フランソワ・ピノーの現代美術コレクションを展示する新しい美術館として昨年5月に開館しました。このように、外観は昔のままでも、新たな使命を与えられて蘇った歴史的建造物は、ピカソ美術館のあるサレ館を始め数多く、最近では昨年6月に一般公開が始まった「オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ」が話題です。コンコルド広場に面し、王室調度品保管所から革命を経て海軍省の本部となり、2010年代にその役目を終えた18世紀の美しい館です。
街の中も時代と共に変化しています。半分が駐車場として使われていたルーヴル美術館の中庭は、80年代にガラスのピラミッドのある美しい広場に生まれ変わり、シャンゼリゼ通りは90年代に歩道が拡張され街路樹も増えました。車の交通量を減らす試みも盛んで、セーヌ川沿いの車道の大部分が、今では市民の散歩道となり、パリ東部の交通の要所であるレピュブリック広場、バスティーユ広場、ナシオン広場も改造され、歩行者フレンドリーになりました。今年半ばからは、トロカデロ広場からイエナ橋、エッフェル塔までのエリアを歩行者専用の緑地広場にする工事が始まる予定です。
変わらないように見えてどんどん変化を続けるパリ。2022年はいったいどんな古いものが復活し、どんな新しいものが誕生するのか、考えるだけでワクワクします。
ブルス・ドゥ・コメルス・ピノー・コレクション
◇初出=『ふらんす』2022年1月号