コロナ前も後もフランスの風景に欠かせないもの
ゴッホの名作『夜のカフェテラス』には、南仏アルルの星空の下、温かな光に包まれてにぎわうカフェテラスが描かれています。カフェやレストランの客席を歩道にまで広げたテラス席のある街角は、ゴッホの時代から100年以上の時を経た今も変わらないフランスらしい風景です。日差しを浴びたり、気持ちのいい風に吹かれたりしながら飲んだり食べたりするのを好む人はとても多く、天気の良い日はテラス席があっという間に埋まります。暖房を設置したり、ビニールやガラスで囲ったりしたテラス席は、真冬でも大人気です。
とはいえ、テラス席が無制限に広がってしまうと景観上も交通上も不都合が生じます。そこで、テラス席の設置は地方自治体によって管理されており、登録と使用料の支払いが義務付けられています。例えばパリ市では、テラス席の風景はパリのシンボルであると認めつつも、細かなルールを定めています。テラス席が占有するスペースは歩道の3分の1までが基本で、歩行者用に歩道の少なくとも1.6mを確保せねばなりません。その他にも、歩道に敷物を敷かない、テラス席の囲いなどに広告を掲示しない、営業時間外は椅子やテーブルを片付ける、などの決まりがあります。実際には、テラス席が場所をとり過ぎて歩くスペースがあまりないような歩道も比較的頻繁に見かけることがあり、周囲の交通量や環境次第で、ある程度大らかに管理されているような印象です。
そんなフランス人が愛してやまないテラス席の存在がより注目されたのが、新型コロナウイルスの流行以降でしょう。フランスでレストランやカフェなどの飲食店が最初に閉鎖されたのは昨年の3月半ば。2ヶ月間の厳しいロックダウンの後、6月の初めに許された飲食店の再開は、テラス席のみの営業からでした。パリ市はもちろん全国の多くの自治体で、路上駐車スペースや車道の一部の利用が特別に許可されたので、テラス席はさらに増え、まるでお祭りのような雰囲気さえ漂いました。6月半ばに店内も含めて全面再開した後も、3密を避けるため、屋外席は大いに活用されました。日本でもコロナ対策でテラス席が増えているそうですね。今この原稿を書いている4月上旬の時点では飲食店は閉鎖中ですが、感染状況次第では、今年の夏も昨年同様、フランス中の街がテラス席でいっぱいになるかもしれません。
コロナ禍であらためて注目されたテラス席
◇初出=『ふらんす』2021年6月号