シャンボール城とダ・ヴィンチと第二次世界大戦
今年の夏、シャンボール城を訪れました。16世紀半ば、フランス国王フランソワ1世によって建てられたロワール渓谷最大の古城で、ルネサンス建築の最高傑作の一つと言われます。前回訪れたのは11年前。その間にルイ14世時代のフランス式庭園が再現され、お城からの眺めはいっそう華やかになりました。樹木600本、低木840本、薔薇100本、庭園を縁取る数多くの植物、約1万9千平方メートルの芝生が新たに植え替えられるという、かなり大規模なリニューアルです。全長32キロの壁で囲まれた全敷地はパリ市内と同じくらいの面積を誇り、イノシシや鹿などの野生動物もたくさん生息しています。
その雄大さもさることながら、近くから見ても遠くから見てもバランスのとれた美しい建築物だなと改めて感じました。屋根から煙突や塔がにょきにょきと突き出ている姿、丸や四角、三角、菱形など幾何学的な装飾も、独特で印象的です。
最大の見どころはやはり、お城のど真ん中に配置された二重の螺旋階段でしょう。一度もすれ違わずに同時に2人が上り下りできる驚くべき構造で、まるで空の上へと伸びるように、地上階から屋上までを結びます。フランソワ1世の客人としてアンボワーズ城近くのクロ・リュセ城で晩年を過ごしたレオナルド・ダ・ヴィンチは、このお城の着工前に亡くなりましたが、この螺旋階段を始め、換気や防水のシステムなどの高い技術が駆使されていて、それらの設計にダ・ヴィンチも関わったという説が有力です。
ちなみにそのダ・ヴィンチが遺した『モナ・リザ』もシャンボール城と縁があります。第二次世界大戦中、爆撃を避けて他の美術品とともにパリから疎開させられた際、ここに一時保管されたのです。広大な敷地を持つシャンボール城はこの戦争中、美術品疎開の最大の拠点となり、クリュニー中世美術館所蔵の傑作タペストリー『貴婦人と一角獣』と『モナ・リザ』が並べて置かれていた時期もあったそうです。終戦直前には米軍機が庭園に墜落。もしも屋根に墜ちていたら、お城だけでなく、どれだけ多くの貴重な名品が破壊されたか、想像するのも恐ろしいですね。今、ルーヴルを始め、様々な美術館で目にしている作品が、歴史の荒波の中で必死に守り抜かれてきたものなのだと思うと感動もいっそう深まります。



