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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2020年〜10年総括〜

 昨年12月5日に始まった年金改革反対の無期限ストは、年が明けても続いた。フランス人にとって最大の年中行事であるクリスマスも、大騒ぎして楽しむ大晦日もスト中だった。クリスマス休暇で帰省する人も、旅行に出る人も、大混乱。パリはクリスマスの華やぎもなく閑散としていた。

 パリ・オペラ座もスト参加のため、連日公演はキャンセルされ、チケットが払い戻された。そして先週は、ルーヴル美術館も労組により入口が封鎖され休館となった。世界中からルーヴルを楽しみにやって来た観光客や、現在開催中のレオナルド・ダ・ヴィンチ展の予約客の落胆ぶりは、推して知るべしだ。

 スト開始以来45日が経過した今(1月18日現在)、来週(1月20日)から、パリのメトロがほぼ通常通りに運行するというニュースが入った。パリ公共交通公団(RATP)は、国鉄(SNCF)よりも強固にストを断行していた組織だ。しかし、年金改革が解決したわけではない。ストは一旦中止するものの、他の方法で反対を続けるという。中止の理由は、スト参加職員の経済的困窮である。ひと月以上も給料がなければ、当然そうなるだろう。

 年金問題を抱えていない国はない。受給年齢、受給額とも、フランスほど優遇された国はない。本人および企業が負担する積立金も世界一高額なのではないかと思うが、このままでは破綻するのが目に見えている。国民もこのことは、よくわかっている。既得権益を主張してばかりでは前に進めない。政府も国民も正念場だ。

 この « Actualité 社会 FAITS DIVERS »欄を筆者が担当するのも今月号が最後となる。約10年の間、各担当者がいる政治・アート・スポーツなどになるべく踏み込まずフランスの話題を伝えたつもりである。変わらないようで、振り返ると大きく変わった人々の生活がある。

 順不同ではあるが、筆者が取り上げたテーマで多かったもの、印象深かったものは以下のとおりである。
・スト、デモ、暴動
・テロ
・自動化、ネット社会(銀行等窓口廃止)
・環境問題(レジ袋廃止、自動車規制)
・移民(アラブの春、シリア難民他)
・スマホによる変化(親子喧嘩含む)
・自然災害
・店舗の日曜
・夜間営業

 日本が抱えない問題もあれば、いずこも同じというものもある。「フランス名物、ストとデモ」と言われないことを望み、これからのフランスの歩みに興味を抱くものである。

◇初出=『ふらんす』2020年3月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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