親元を離れない若者
「成人したら親元を離れる」という文化も今や昔。親元を離れられない、あるいは離れない若年層の問題は、世界的な傾向であり、社会問題化して久しい。日本や英語圏では「パラサイト」と呼び、フランスでは、今は使われないが「カンガルー(お母さんのポケットにいるカンガルーの意味から)」、その後2000年代になってからは、「タンギーTanguy」と呼ばれた。「タンギー」とは、フランスの映画の題名で主人公の名前である。高学歴で講師も務める30歳にもなろうという息子が親元を離れず、日々母親に世話してもらいながら、ガールフレンドを泊めるなど、親にすれば目に余る日常を描いたものだ。そして親が息子追出し作戦に出るというコメディーだ。フィクションではあるが、フランスの切実な問題を描いている。
フランスのパラサイトを描いた映画「タンギー」
社会問題化している成人した子どもと親の同居問題には、多くの調査結果がある。従前通り義務教育終了年齢や成人年齢以上の者を対象とするのは、この問題を検討する上では適切ではない。それらのデータを排除しても、いずれの結果からも同居率は高く、増加し続けていることがわかる。いくつかの統計結果を分析すると、国別では次のような順位となる。同居率が高い欧州の国は、イタリアが1位で、ギリシア、スペインが続く。そして旧東欧諸国がいくつか続き、フランスは大体5 ~ 7位で、20代の若年層で約35パーセントが同居している。
社会問題として各国が取り上げるのは、同居の理由が若年層の失業率の高さに直結していることにある。長引く経済不況と出口が見えない失業問題だ。さらに不動産価格の高騰もある。
経済問題だけでなく、親子関係や結婚などの考え方の変化も理由として挙げられている。親を便利に使う子ども、甘やかして育てた子どもを手放したくない親、どちらかが嫌にならない限り同居は続く。
一方、また新しい親子の同居の話として、「ブーメラン」と呼ばれる現象がある。一度は独立した子どもが戻ってくることを指す。離婚、失業などネガティヴな理由が多く、かならずしも望んで戻ってくるわけではないようだが、「ダメなら家に帰ればいい」という子どもの考えと、それを迎える親がこのブーメラン状況を生み出している。ブーメランは若年層に限らず、中高年になっても親元に戻るケースが見られる。成人した子どももいる中高年の親が、離婚や失業により老年の親元に戻る例もある。孫が戻って来たという老人の話もよくあるそうだ。親や祖父母を世話するために戻って同居するのではない。自分が世話してもらうためだ。新しい家族観が生まれそうな気配だ。
◇初出=『ふらんす』2018年10月号