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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2018年6月号 フランス国鉄SNCFのスト

 またストである。いくらフランス名物のストライキといえど、巻き込まれると苛立ちを禁じ得ない。日本では公務員のストは法律で禁じられているが、フランスでストをするのは主に公務員である。国鉄をはじめとする交通機関、公立の病院、学校、郵便局、電気ガス会社など。

 3月末には多業種にわたるゼネストがあり、今はフランス国有鉄道(Société Nationale des Chemins de Fer Français=SNCF)が前代未聞のストを続けている。4月3日から6月28日の3か月にわたり36日間ストをする。5日のうち2日ストするものだ。つまり、3日間正常に動いたら、2日間はスト状態、これを繰り返す。最低運行保証制度ができてから、全面ストップというのはなくなったが、約8割が運行を停止する。どの列車が動かないのかは24時間前にわかる。

 SNCFを通勤に利用する人は、自宅勤務や、大渋滞覚悟の自家用車の乗り合い通勤や、すし詰め状態の車両での通勤を余儀なくされている。4月は学校の復活祭休暇もあり、出発日は大混乱だった。長距離便や国際便はなるべく運行するという配慮もあったが、焼け石に水だった。観光業界はキャンセルが続き大打撃である。5月は年間有給休暇の消化月で、多くの人が休暇を取るが、この時期もキャンセル多発が予想される。

 ストは旅客に限らず、貨物列車も含むため、流通が滞り、産業全体が停滞し減益が予想されている。

 スト決行の理由は、政府のSNCF改革案反対である。現在SNCFは約470億ユーロ(約6兆円)の累積赤字があり、年間30億ユーロ(4,050億円)の赤字だ。この赤字解消が最終目標であるが、そのための改革案として、「シュミノcheminot」と呼ばれる鉄道職員の優遇措置の段階的廃止や、1991年EUですでに採択されている鉄道事業の競争力強化が提示されている。鉄道職員は年毎の自動的賃上げ、早期年金支給(運転士52歳、他の職員57歳)、雇用保障、近親者の鉄道無料利用など恵まれている。政府は2020年からシュミノの待遇での職員採用は廃止すると発表し、競争力強化の点では、多くの職員は政府が目指すのは民営化だと恐れているが、政府は民営化を考えていないと明言している。

 今日現在、ストが始まりわずか3週間だが、開始時のスト決行者が全職員中33.9%だったのに対し19.8%に減少、運転士だけを見ても70%から60%に減っている。これはスト参加による減給が原因とみられている。当初は36日分の減給覚悟でスト突入と言われたが、それは月給3分の1の減収となり、堪えかねて職務につく職員が増えているからだそうだ。

◇初出=『ふらんす』2018年6月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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