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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2018年2月号 フランス国民が行政に望むもの

 2017年末に行政に求めるもの(期待するもの)という統計が発表された。統計を取り始めてまだ10年と日が浅いものだが、国民の関心が何にあるかを示す指標になる。上位から順に示すと、「雇用」「健康(公衆衛生)」「教育」であり、このトップ3にも変化がみられた。前年までは「治安」が2位だったが、2017年は「健康」がその座についた。

 1位の「雇用」では、高止まりの失業率が減少傾向にあるとはいえ、雇用政策への関心は高く、ランキングトップを独走している。労働者への過剰な保護による硬直した労働市場を改善すべく、昨年は労働法が改正された。失業者への職業訓練や、就職あっせんなど行政が果たす役割は大きい。

 2位の「健康(公衆衛生)」は、実際のところ何を示すのか明確にされていないが、その範囲は広い。医療体制、健康診断、予防注射、上下水道から食品衛生にまで及ぶ。タバコやアルコールの規制なども含まれている。

 この分野で、フランスは世界で15位であると別の統計結果がある。欧州諸国ではスイスやスウェーデンが上位に位置し、下位にはやはり発展途上国が並ぶ。著しく改善した国として、中国、トルコ、ペルーが挙げられている。アメリカは医療の不平等を理由に35位だった。

 3位の「教育」も常に関心の高い項目である。近年、初等教育にいろいろと変更が見られたが、昨年は大学教育が取り上げられ、バカロレア改革の審議が始まった。受験科目数を減らし、教育機関ごとの試験や口頭試問の導入などが検討されている。

 上昇率が高かった項目は、「住居」「社会保障」「健康(公衆衛生)」の順だった。そして、大きく後退したのが、以前は2位だった「治安」である。この点については、やはりIS勢力の減退やテロ問題が反映していると分析されている。

 2015年11月のパリ同時テロ以降、6回にわたり延長されてきた非常事態宣言が2017年11月1日に解除された。代わりにテロ対策新法が同日施行され、実質的にほぼ同様の警戒態勢が続けられている。新法の主な内容は、危険人物の監視、危険人物の移動制限、家宅捜索の手続き簡便化、および危険な宗教施設への一時閉鎖を含む対応である。

 10月にはマルセイユ駅でテロ事件もあり、決してテロの危険がなくなったわけではなく、国民の関心が薄くなったわけでもないが、現行の警備態勢に大きな不満がないと理解することができる。非常事態宣言解除は、テロ事件で大打撃を受けた観光産業にも明るいニュースだった。

◇初出=『ふらんす』2018年2月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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