2017年8月号 フランス牛乳事情
フランス牛乳事情
世界中から大ニュースが飛び込んでくるこの頃にあり、これはフランスの小さな小さなニュースである。バターの値段が高騰しているという。バターの原価は、この1 年間で2 倍に値上がりした。それはもちろん需要供給の経済原則からも明らかなように、バターの不足が原因だ。
日本でもここ数年、バター不足がニュースになった。この日本の状況が頭に残っていた私は、フランスも同様の状況に陥ったことに驚いた。まさか世界的現象というわけではないだろうと思いつつも、原因について少し調べてみた。
日本のバター不足は、一定時期の急激な需要に起因しているようだ。それは、年末にかけてのケーキ生産量の激増にあるらしい。また、バターの供給に複雑な規制があったらしく、その規制緩和も法制化された。この処置により日本のバター不足が年末恒例ニュースから姿を消すかどうか興味のあるところだ。
一方、フランスの場合は、日本より少し規模の大きい問題のようだ。バターが足りないというのは、すなわちバター用の牛乳が足りないということだ。牛乳の過剰生産問題が記憶にあるが、いつから一転して牛乳不足になったのだろう。
EU では、様々な農作物の生産量に規制があり、牛乳もそのひとつだった。1984 年以来、一昨年の2015 年まで、生産量は厳しく管理されていた。国ごとに割り当てられた生産量があり、それを超えると罰金が課せられた。しかし、この生産量規制は、2015 年4 月に撤廃され、各国の自由裁量となった。
生産量の上限撤廃で、フランスでも過剰生産が起こり、牛乳の価格は暴落した。そして次は、外圧による生産規制ではなく、自らの慎重な生産管理が始まった。
さらに中国への牛乳輸出量が増加の一途にある。フランスは、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリアに並ぶ牛乳輸出国でもあり、輸出量の増加は、国内分に影響を及ぼすことになった。
牛乳は飲料用、チーズ用、ヨーグルト用、そしてバター用と振り分けられ、バター生産業者はバター用の増量を訴えている。バターの高騰は、フランス人の大好きなクロワッサンをはじめ、ヴィエノワズリーviennoiserie と呼ばれる菓子パンの値上がりも招く。秋からの値上げは避けられないと、パン業界は述べる。
フランス人の食生活は、バターたっぷりだ。地中海沿岸ではオリーブオイルを多用するが、フランスでは地中海から北上するにつれ、バターとクリームの使用が増える。さらにチーズの1 人当たりの消費量も、堂々の世界一である。牛乳とは切っても切れない食生活のフランスにあって、牛乳問題は重要である。
◇初出=『ふらんす』2017年8月号