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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

日仏文化交流の今

 ざっくり言うと、フランスは日本に比べ、国土が1.5倍、人口が半分だ。付き合いの長さは、今年で160年になる。安政5年(1858年)、江戸幕府がアメリカ、オランダ、ロシア、イギリス、そしてフランスの5か国とそれぞれ通商条約を結んで以来の仲である。

 第二次大戦以降のフランスにおける日本は、「フジヤマ・ゲイシャ」に始まり、続いて「精密機械」、そして今の若者は「マンガ」が日本とのファーストコンタクトだという。毎年夏に開催されるJapan Expoも大変なにぎわいだ。マンガやコスプレといった若者文化のお祭りのようなものだ。保護者の付き添いが必要な子どもたちも大勢つめかける。文化交流といえばもっぱら伝統芸能であったが、マンガも今や立派な日本文化であり、この両者のギャップに時々頭を悩ませることもあると文化担当者が言っていた。

 両国ともたがいに食に関する影響が大きいが、それは別のページにお任せするとして、他によく耳にする言葉では、まず「ゼン」が挙げられる。禅のZenだが、「静か」という意味で用いられる場合が多い。TGV(高速鉄道)の車内では、« restez zen »(静かにしましょう)などの表記がある。しかし、いまだにストが続く国鉄に対しては、「どうやってZenを保つのか?」と揶揄されている。また、ミニマリスムのインテリアの部屋を、「Zen風ね」と言ったりする。禅の本来の意味からも遠くなく、派生した使い方としてなかなかのものだ。

 そして、「オタク」も若い人たちの間では、よく使われているようだ。これは少し本来の意味からはずれ、「とても興味がある」「とても好きだ」という場合に使われている。「僕はマンガのオタクなんだ」などと言う。「オタク」には日本ではネガティブな意味があるということは、どうやら抜け落ちてしまったようだ。いきなり「僕はオタクです」と言われたら、首をかしげてしまう。それにしても、若者はどこからこのような言葉を学んでくるのだろう?

 最後に、これはだんだんと広まってきているものだが、ウォシュレットのトイレだ。カタログに、 « toilette de luxe » (高級トイレ)と書いているのを以前見たことがあるが、今では « toilette japonaise » で通じるようだ。日本のメーカーが何十年か前にフランス進出も試みたが、その時は水と240ボルトの高圧電力との危険性の問題、石灰を含む水質の問題でうまくいかなかったと聞く。これらの問題は解決したのだろうか? 「日本風トイレ」は「和式トイレ」ではなく、ウォシュレットなのだ。今後、どのような日本の文化、製品、言葉が定着するのか興味深い。

◇初出=『ふらんす』2018年8月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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