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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

所得税のネット申告義務化:フランス

 2018年の所得税申告は、ネットによる申告が義務化された。申告期限は、2019年6月4日(火)の24時だった(日本と違い、給与所得者であれ、所得税申告は納税者全員が行わなければならない)。ネット申告は急な変革ではなく、2016年から段階的に対象納税者の範囲を広げてきた。そして、今年は全員がネット申告するべく義務化された。

 対象者の段階的な拡大は次のように行われた。2016年は所得40,000€(520万円)以上の納税者がネット申告を義務化され、2017年は28,000€(364万円)以上が義務化、2018年は15,000€(195万円)以上が義務化された。つまり、所得の高い人から順に義務化され、2019年はついに全員となったわけだ。

 このような対象範囲の拡大方法は、フランスがよく用いる手で、法人税や付加価値税のネット申告義務化の時にも同様に、売上高の多い企業から順に義務化された。ちなみに、法人関係の申告のオンライン化はすでに完了している。

 所得税申告がオンライン化の最終課題だった。理由は、全ての個人宅にPCがあり、ネット環境が整っているわけではないからだ。ネット申告の開始以来、税務署やその他公共の場で、申告方法を教える教室が多数開催された。とはいえ、義務化という強制措置以前に自発的に動いていた国民が少なかったのは、言わずもがなである。

 全面強制となった今年も、救済措置はもちろん設けられた。自宅に環境が整わない人や、やり方がわからない人には、税務署で税務署員に教えてもらいながら申告する方法が取られた。また、税務署に赴けない人のためには郵便局員が自宅で申告を助ける手段もとられた。これは、29€の有料だったようだ。もちろん、紙ベースの申告もまだ受け付けられた。ただし、ネット申告より半月早く申告が締め切られた。

 政府の思わく通り100%ネット申告が実現したかというと、結果は全納税者の86%だったようだ。2018年にすでに60%だったことを考えると、100%の達成には不十分な伸び率にも感じられるが、ほぼ9割と思うと大変な数字である。

 税務署も政府広報も、ギリギリになると接続しにくくなる危険があるので、早い申告を注意喚起していたが、案の定、申告期限前夜に通信障害が発生し、期限は48時間延長された。申告期限前の週末にやろうと思っていた人が多い中、その週末が久々の快晴で皆遊びに出かけてしまい、月曜日の夜にアクセスが集中したせいのようだ。フランスらしいというか、いずこも同じというか、億劫なものは後回し、青い空には勝てない。

◇初出=『ふらんす』2019年8月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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