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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

2017年12月号 ハイヒールと職務の関係

 女性をより美しく見せるために一役買うハイヒール。業務中のハイヒールの着用について、再び問題提起がなされた。特定の職種ではあるが、企業はハイヒールの着用を強制できるか、という問題だ。ずっと以前に、ニューヨーカーが通勤はスニーカーで、オフィスでパンプスに履き替えるというのが話題になった。以来この問題は女性の間で常にくすぶり続けていたことである。

 いわゆるかかとの高いパンプスだが、何センチ以上をハイヒールというのかは当然定義などない。ハイヒールの靴を履いたことのない男性でも、疲れそうだな、痛そうだなという位は想像がつくだろう。

 英国では昨年、ハイヒールの着用を拒否しクビになったコンパニオンや、パーティへの出席を拒否された職員などが訴えをおこした。フランスでは訴訟問題とまではなっていないが、ハイヒールの健康問題は取り上げられている。やはり足への負担は相当のようだ。

 強制されなくても履き続ける女性心理は、美しさのためだろう。エレガントだし自分が引き立つと答えている。足の専門医にかかりながらもハイヒールを履くシックなレストランで働く女性は、「契約書には着用義務は書かれていないけど」と、苦笑いしていた。

 労働法に規定はないが、業務中の服装について、「業務目的を遂行するために必要な服装」という解説がある。なんとも適確な表現である。確かに工事現場にパンプスで行く人はいないだろう。美やエレガンスを求める職種と靴の問題は、この観点からも非常に微妙なところだ。

 男性側からは、「ネクタイやスーツの着用と同じ事ではないか」と反応があった。要は自分をどのように見せたいかという事だ。つまり、信用を得たい時は、短い髪、ネクタイとスーツという風に。もさもさの髪にだらしない服装の銀行員に資産の相談はしたくない(そのような銀行員は見たこともないが)。

 靴の問題は男女差別だと鼻息粗いフェミニストもいるが、マクロン大統領の組閣時には、多くの女性大臣の登用について、男より女の方が大臣になりやすいという意味で、「スカートを履いているほうが大臣になりやすい」というジョークがあった。男性からの逆差別の表明だ。

 礼儀を欠かず、不快感を与えず、そして業務目的は何かを考え、その目的達成のための適切な服装が大切なことだ。

 話は逸れるが、夏にフランス出張する日本人ビジネスマンに、「ネクタイをお忘れなく」と言った経験が何度もある。クールビズが何と定着したことかと驚く。

◇初出=『ふらんす』2017年12月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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