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「アクチュアリテ 社会」仁木久惠

フランスのブランド、その栄枯盛衰

 ブランドの定義は、それが用いられる領域により一定ではないが、フランスと言えば頭に浮かぶのは高級服飾品ブランドだ。フランス企業のブランド力を駆使した事業展開のうまさは群を抜いている。製品の付加価値を高め、ブランドとして確立するためには、それを裏付ける技術力がなければならないことも明らかだ。

 ブランド・ビジネスの代表格として有名なルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー社(LVMH)は、60近くの高級ブランドを傘下に収める大企業である。社名にあるように、1987年に、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシー(シャンパンのモエ・エ・シャンドン、コニャックのヘネシー)の合併により設立された。ブランドのほかにも、免税店のDFSグループや化粧品販売のセフォラなど流通網も有している。日本におけるシャンパンのシェアは70パーセントを占めるという。

 LVMH社のCEO(最高経営責任者)であるベルナール・アルノー氏の推定資産額が、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏を抜いて世界2位となったニュースはフランス国内でも注目を集めた。ちなみに1位は、アマゾン創業者のジェフ・ベソス氏だ。あくまで個人の資産総額ランキングではあるが、この点からもLVMHの収益力の大きさが伺える。

 とあるブランドがLVMHの傘下に入ったとか、LVMHが手放したとか、そのブランドの人気度や収益力のバロメーターとして話題にのぼることも多い。とはいえ、LVMHのような巨大企業の傘下に入らず、独自に経営を行うブランドが大半であることは言うまでもない。

 そのようなブランドの1つにニット製品で有名なソニア・リキエルがあった。デザイナーの名前をとり、1968年に誕生し、普段着でしかなかったニット製品をファッショナブルなアイテムとして展開し成功を収め、フランスを代表するブランドとして名をはせた。

 しかし、近年の業績不振から2012年に香港の商社の傘下に入り、経営改革を試みたが業績は上向かず、デザイナーで創始者のソニア・リキエル女史の死により経営はさらに悪化した。そして、2019年3月、再建手続を申請したが、期限内に再建計画がまとまらず、7月に商事裁判所から清算決定が通知された。ソニア・リキエル社の清算は、ソニア・リキエルというブランドの消滅を意味する。モードに関心のある人たちからは、ブランドの消滅を驚くとともに惜しむ声が寄せられた。ソニア・リキエル本人はモード史に名前を残すであろうが、ブランドという観点からは存続と経営の難しさを考えさせられる一例だった。

◇初出=『ふらんす』2019年10月号

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著者略歴

  1. 仁木久惠(にき・ひさえ)

    在仏会計コンサルタント。税理士。博士(経営情報科学)

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